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■読者の評価
おすすめ度平均
本当の小説らしさ おすすめ度
この小説は、「本当の小説」という印象がある作品である。どういうことかというと、この小説によって伝えられている内容は、小説以外の媒体で伝えるのは、ちょっと難しい、ということだ。
主人公のアメリカ人男性と、その「戦争花嫁」である「ユキエ」は、お互いがお互いに、非常に尽くしているのに、結局老境に入っても、お互いのことがわかっていない。そのせいで、お互いの誠実さがむしろ、お互いに対する不信感として間に残る。これは悲劇なのだが、その悲劇性が、ユキエの「うつ病」とも「アルツハイマー」ともはっきりしない「心の病気」のせいで、はっきりと目に見える形に変わる。
社会問題、男女の葛藤、日米の文化的差異、人種差別、地域的な偽善。それらのどれもがユキエの「心の影」を説明する理由にはなりうるのだが、どれもたんなる解釈とも取れ、結局何が真の問題なのかがはっきりわからないうちに、ユキエは次々に記憶を失っていき、コミュニケーションによって心の裡を明らかにしようという試み自体が、できなくなってしまう。
こういう、かなりの言葉を持っても説明し尽くしがたいような心理的事件を、かなりよく伝えている。さすが芥川賞と思わせるような作品である。

