海峡の光 (新潮文庫)
作者 辻 仁成
価格 380 円
出版社名 新潮社
出版年月 2000/02
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    第116回 芥川賞   受賞
廃航せまる青函連絡船の客室係を辞め、函館で刑務所看守の職を得た私の前に、あいつは現れた。少年の日、優等生の仮面の下で、残酷に私を苦しめ続けたあいつが。傷害罪で銀行員の将来を棒にふった受刑者となって。そして今、監視する私と監視されるあいつは、船舶訓練の実習に出るところだ。光を食べて黒々とうねる、生命体のような海へ…。海峡に揺らめく人生の暗流。

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■読者の評価     おすすめ度平均

詩的な物語       おすすめ度
最近詩的な小説を手にすることが全くなかった。
いわゆる、ビジネス本や、時代小説、推理小説、キャリア本等等、そんな本を読んでいた。
これは珍しく知人からもらった本である。
人から薦められる本と言うのは、全く未知のものである程おもしろい。
これはそんな本であった。

久しぶりに詩的な本を読んだ。一瞬の内に異空間に迷い込む。これが芥川賞系の本なのだと素直に感じた。はらはらどきどきではない。何か懐かしさを思い出させ、口では具体的には説明できない感情の喚起、これこそ芥川系だと思う。

正にこの本は芥川系の本道を行っている。芥川賞受賞作なのだから当然なのだが。
日常の生活からすっと離れる時間を持てる、そんな本であった。


港町函館を舞台とした人間の心の深層       おすすめ度
つい先日函館旅行をして、作者の「函館物語」を読み、そういえば本作が家にあったと思い、再読した。時期や内容から観て、「函館物語」は本作の取材旅行記のようなものであったのだろう。青函連絡線・街中のバー・刑務所と隣り合わせの競輪場。本作に良く表されている。
本作は主人公斉藤の心の動きを丁寧に描いている。昔苛められた同級生の花井が、斉藤の勤務する刑務所(函館少年刑務所)にやってくる。そこから斉藤の心は揺り動くのである。その心の動きは「函館」の街と密接にリンクする。まるで街が主人公の心を動かしているようである。作者は主人公斉藤の心の動きを容易な言葉で丁寧に描く。読者である我々はその筆力のお陰で斉藤の心の動きが手に取るようにわかる。トラウマなんて手垢にまみれた言葉で表せない、もっと複雑な心内なのである。読者である我々はみんななんらかの斎藤の気持ちを心に抱いている。だから共感できるし、物語の中に入っていくことができるのである。


小説として完成されている       おすすめ度
殆ど文句のつけようはない。北国の自然を描いた描写は濃やかでどこまでも美しく、「私」の心理描写は人間の弱さをスリリングなまでに表現している。完成度の高さは、近年の芥川受賞作の白眉と言えよう。「ピアニシモ」以来地道に続けた作家活動の集大成だ。「サヨナライツカ」などで見せたストーリーの陳腐さは微塵もなく、正直よくぞここまで、と唸らせられる。作家辻仁成はここに極まった。


文章が煌めいている       おすすめ度
文句なしの芥川賞。
素晴らしい文章です。
でも、ふっと思いました。
今の若い人がこれを読んでどう思うだろうか、って。
携帯小説もいいけど、こういった作品も読んで欲しいですね。


完成度の高いこれぞ小説!といえる作品       おすすめ度
函館の刑務所を舞台。
刑務官と犯罪者が、小学生時代のいじめられた子といじめた子の関係だったという18年ぶりの偶然の再会から、
その人間の本性ともいうべき歪められた心理を追っていく物語。
何か起きそうで何事も起こらない、そんな日々の緊張感が、
作り話的な小説っぽくなく、リアリティがあり、人間の内に潜む日常を見事に描き出した作品だ。
ただ最後に出所する時に刑務間を殴ってしまうという部分だけは安直すぎた感は残ったが、
全体としてのストーリー展開は実に緊張に満ち溢れて良かった。