作者 大江 健三郎
価格 500 円
出版社名 新潮社
出版年月 1986/02
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    第34回 読売文学賞   受賞
荒涼たる世界と人間の魂に、水滴をそそぐ「雨の木」。優雅で荘厳な現代の黙示録。

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■読者の評価     おすすめ度平均

大江が書きたかったものは。       おすすめ度
葉のまるい窪みに雨水をため、雨がやんだあともしばらく雫を滴らせるレインツリー。この木を生命の暗喩として使い、命や性のあるがままの姿を著者と同じ境遇の小説家の目を通して語る連絡短編小説。

大江は死がすぐ近くにあると意識して小説を書いており、その死を生の側から見つめることで本書を為している。不遇の友人高安カッチャン、死に際の苦痛を恐れるカルロス、犯され癖のある猪之口さん、本書で大きな位置を占める人物はみなそれぞれのやり方で生き、そして死んだ。読者は大江の視点から彼らの人生をなぞり、大江と彼らの中にあるレインツリーを見出すことになる。暗闇の中でひたひたと雨粒を落とし続けるレインツリーと人の命とは、その神秘性、官能性について重なる。先の見通せない空間で佇む木と、混沌とした世界に生まれふいに死んでいく人類は根本的なありかたが同じなのだ。「人」を表現するために大江は暗喩としてレインツリーを選んだわけだが、見事である。

大江という人の小説を初めて読んで、なにかに納得した。なにかとはある種の矛盾ややるせなさなのだが、それ以上に言葉を選ぶことは難しい。なにに納得したのかは自分でもよくわからないというのもある。しかしそれでよいと思っている。これはそういう小説なのだから。


物語に登場する私       おすすめ度
ラッシュ前の7時頃の通勤電車の中で毎朝読んだ。8時前にまだ誰も出社していない会社に着きパソコンを立ち上げて仕事に取り掛かった。まだ脳裏にはストーリーの残影が残っている。高安カッチャンはもう死んでしまったけど大江健三郎によって私は彼を知ることとなった。こうして誰もいないオフィスで仕事に取り掛かっている私は、もしかしたらどこかの物語に登場して誰かに読まれているんじゃないだろうと思う。いやそうじゃない、今は現実で私は生きている・・筈だ。でも微かな不安が沸き上がる。カッチャンは大江健三郎によって記録されたが、私はどこにも登場せずいつか死んで消えてしまうのだ。
レイン・ツリーから滴る雫は、生物が本来持っている本能を邪悪な欲望と諭した社会性の矛盾に陥った歪んだ象徴だ。そんな木はもともと存在しないのだ。
ふと私は物語に入って大学の食堂の椅子に座ってカッチャンと大江の姿を眺めている。いやそうじゃない、私はこれから最低12時間この机で仕事をするのだ、背後で女子社員が私に挨拶をした。そうだ、私は物語にいるのではなく現実の世界で生きているのだ。


読書とは・・・       おすすめ度
読みながら自分が変容していく体験をしたことがあるだろうか? 読む前後で、それまでとはどこか違った人間になったと感じたことは? 何も妙な精神世界の話をしているのではない。知性とは、絶えず一瞬前の自分を疑い続けるものであり、とどまる事を知らない。その意味では、この小説は、知性的な小説であると言えるだろう。一つの言葉がその前の言葉を打ち消し、一つの章がその前の章を打ち消し、一つの短編がその前の短編を打ち消し、物語は進んでいく。大江健三郎の文体は難解だと言われたり、口の悪い人からは「下手だ」と言われたり、独特なものだが、それも書きながら書いたものを否定し続けて先に進んでいくという、知性的な作業ゆえの文体だと思う。大江健三郎がいかに革新的な作家であり、いかに他の追従を許していないか、この作品を読んで実感してほしいと思います。


とても大江健三郎らしい作品だと思いました。       おすすめ度
「雨の木」を主題に置いた短編群です。

また、これは彼の作品にあらわれる、エキサイティングな特色だと思いますが、前作をフィードバックさせていくという、(まるで樹木の生成の仕方のような)全体の構造がこの短編集に、(作者自身の目論見を裏切るようなもの。暴力性かもしれないし、、あるいは信仰かもしれないし、、)なんともいいようのない迫力を与えています。

著者は、この作品の全体を通して、言葉では伝えられない「こと」の代役を果たすメタファーの力とは何かを、その「こと」を、すなわち「雨の木」を前述の方法論を用い、物語ることで、たしかに伝えているように思えます。

これは傑作だと思いました。

読書ということが、ある情況において私対本でしか起こり得ない、一回きりの体験だと、改めて実感できました。



ふしぎな小説       おすすめ度
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