群棲 (講談社文芸文庫)
作者 黒井 千次
価格 1,260 円
出版社名 講談社
出版年月 1988/02
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    第20回 谷崎潤一郎賞   受賞
向う三軒両隣ならぬ“向う二軒片隣”の四軒の家を舞台とし、現代の近郊の都市居住者の流れ出した日常を鋭く鮮かに描き出す。著者の最高傑作と評され、谷崎潤一郎賞も受賞した“現代文学”の秀作。

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■読者の評価     おすすめ度平均

「暗い」小説       おすすめ度
 この小説が書かれてからすでにかなりの時間が経過している。ヒトラー、ムッソリーニ(そして日本?)に代表される全体主義の時代を経て、再び「自由」という概念の価値が見直され、国家権力や倫理による縛りを極端に嫌う一群のひとびとは、「売春の自由」「臓器売買の自由」といった「他人に迷惑をかけなければ何をしてもいい」というリバタリアリズム(自由至上主義)という思想を生み出した。反面、「行き過ぎた」個人主義に警鐘を鳴らす論者も多い。日本では、そのような論者はほとんど歴史修正主義=いわゆる自虐史観反対論者とオーバーラップしている。コミュニタリアリズム(共同体主義)への回帰である。
 しかし、「向こう三軒両隣」という、伝統的な日本の家族、町内会といった、小集団というものは、個人の基盤であり、個人の安定を支えるものという前提は、果たして正しいのだろうか? 本小説からは、むしろこういった伝統的な共同体を失い、都会に集まった人々が、そこで「疑似共同体」を形成してゆくなかで、かえってその共同体に束縛されてゆくさまが描かれている。そこに救いは見られない。
 この作者が提示する閉塞感に対する眼をつぶってはならないのではないか。安直に共同体「らしきもの」に解決を求めるのではなく、新しいオールタナティブを見つけないといけないのではないか。

 「暗い」というだけで、この小説の真価を見失ってはいけない、と思う。



現代日本の閉塞感を鮮やかに描き出す好著       おすすめ度
日本の家族に普通に見られるあの息のつまったような感じ、を端麗な文体で表現しています。本は、同じ袋小路に棲む、人生の様々なステージ(結婚数年後、小さい子供がいる、大学生がいる、子育て後)にある4つの家族を中心に、オムニバス形式で、進行していきます。

共同体における共通の軸・価値観、といったものが失われて久しい現在、それでも家族という単位で生活していかなければならない現代人の混迷を、淡々と、美しい暗喩をまじえながら描き出します。80年代に書かれた本ですが、21世紀になった今でも、その問題意識は新鮮さを失っていません。安易な解決策、カタルシスを提示せず、ざらっとした不快感を残す終わり方に、著者の苦悩の深さが読み取れます。