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■読者の評価
おすすめ度平均
得がたい作品 おすすめ度
主人公が閉ざされた場所へ行き物語が語られ、主人公がそこから出て行くところで物語りは終わる。その形は「芽むしり仔撃ち」と共通しているものがあるが「芽むしり仔撃ち」が救いようの無い悲劇の形で終わるのに対して、この作品はある種の「希望」が描かれて終わる。
9年の時を経て大江氏の中で何が変化したのであろうか。大江氏は自らの「個人的な体験」を通して、人間存在の奥底に希望の種も見出したのだと私は信じたい。主人公は最終的に、残酷で不誠実で矮小な自分自身と向き合うことになるが、それでもその中でなんとか明日への一歩を踏み出していく。人はどうしようもない状況に陥った時、この作品の結末のような「希望」を信じることで、ぎりぎりのところで救われるかもしれない。そんな読後感に浸れる得がたい作品であると思う。
9年の時を経て大江氏の中で何が変化したのであろうか。大江氏は自らの「個人的な体験」を通して、人間存在の奥底に希望の種も見出したのだと私は信じたい。主人公は最終的に、残酷で不誠実で矮小な自分自身と向き合うことになるが、それでもその中でなんとか明日への一歩を踏み出していく。人はどうしようもない状況に陥った時、この作品の結末のような「希望」を信じることで、ぎりぎりのところで救われるかもしれない。そんな読後感に浸れる得がたい作品であると思う。
読み応えのある傑作 おすすめ度
「個人的な体験」を読んだ後で、続けて本書を読んだ。
本書は、頭に異常がある障害児が生まれてからの話としてスタートするため、
「個人的な体験」の続編であるかの様な印象を受けるが、
登場人物の名前や家族構成等の設定は微妙に違っている。
しかし、主人公に大江氏自身を投影している事に違いはない。
物語の舞台は主人公の故郷である四国の山村へ飛び、百年前の一揆をなぞる様に、
弟の鷹四を中心に村人達の暴動が起こり、その過程で封印されていた先祖たちの真実や、
鷹四と死んだ妹の衝撃的なエピソードなどが明らかになっていく。
本書はプロットが緻密で、読み応えのある傑作である事は間違いない。
だが、暴動に直接関わることなく批判的に傍観している主人公の姿は、
当時の過激化する学生運動とは距離を置いて見ていた大江氏自身と重なるとは思うのだが
「個人的な体験」と比べると、ちょっと作り話っぽくなり過ぎて、
主人公に大江氏自身を投影する事に無理が生じているようにも感じた。
でも、独特な読みにくい文体にも大分慣れたので、他の作品も読んでみたいと思う。
本書は、頭に異常がある障害児が生まれてからの話としてスタートするため、
「個人的な体験」の続編であるかの様な印象を受けるが、
登場人物の名前や家族構成等の設定は微妙に違っている。
しかし、主人公に大江氏自身を投影している事に違いはない。
物語の舞台は主人公の故郷である四国の山村へ飛び、百年前の一揆をなぞる様に、
弟の鷹四を中心に村人達の暴動が起こり、その過程で封印されていた先祖たちの真実や、
鷹四と死んだ妹の衝撃的なエピソードなどが明らかになっていく。
本書はプロットが緻密で、読み応えのある傑作である事は間違いない。
だが、暴動に直接関わることなく批判的に傍観している主人公の姿は、
当時の過激化する学生運動とは距離を置いて見ていた大江氏自身と重なるとは思うのだが
「個人的な体験」と比べると、ちょっと作り話っぽくなり過ぎて、
主人公に大江氏自身を投影する事に無理が生じているようにも感じた。
でも、独特な読みにくい文体にも大分慣れたので、他の作品も読んでみたいと思う。
言霊 おすすめ度
読み始めた瞬間、この本の中に引き入れられてしまった。独特の文章で書かれた不思議な光景は頭の中に焼き付けられるほどの印象の強さを持っており、難解な文体もさほど苦にならず読み進んでいける、まさに日本文学屈指の名作だと思う。発生した暴動と万延元年の一揆が重ね合わされ、時系列が次第に曖昧になっていく様に感じられるのだが、そんな手法も驚くべき物だと言えるのではないかと思う。とにかくものすごいインパクトである。
心のどこかに暗い影の差している登場人物達の“新生活”を描く作品。弟の一揆の首謀者への憧憬から起こる暴動や、折に触れては語られる生涯を持って生まれた息子の存在など鮮烈な描写には事欠かない。それらも単にイメージをごった煮にしてしまうのではなく、それぞれ関連性を持たせて構成しているようで、本から受ける印象の割にはよく空中分解せずにすんだものだとそちらの方に感心してしまったりした。鮮烈、インパクト、という言葉を先ほどから多用しているが、印象しかのこらない作品ではなく、人物の人間性の描き方もえぐみや重みがあって凄く良かった。
値段に関して言えば、確かに文庫本には割に合わない値段だろうと思うが、単行本を買うつもりで購入すれば別に損にならない内容だと思う。ぜひ読んでもらいたい一冊。
心のどこかに暗い影の差している登場人物達の“新生活”を描く作品。弟の一揆の首謀者への憧憬から起こる暴動や、折に触れては語られる生涯を持って生まれた息子の存在など鮮烈な描写には事欠かない。それらも単にイメージをごった煮にしてしまうのではなく、それぞれ関連性を持たせて構成しているようで、本から受ける印象の割にはよく空中分解せずにすんだものだとそちらの方に感心してしまったりした。鮮烈、インパクト、という言葉を先ほどから多用しているが、印象しかのこらない作品ではなく、人物の人間性の描き方もえぐみや重みがあって凄く良かった。
値段に関して言えば、確かに文庫本には割に合わない値段だろうと思うが、単行本を買うつもりで購入すれば別に損にならない内容だと思う。ぜひ読んでもらいたい一冊。
新生活への勇気 おすすめ度
人は程度の差こそあれ、人には言えないような痛みや苦しみ、悩みを抱えながら生きているのだと思います。そして、時々それらは当事者を危機的状況に追い込みます。一旦このような危機的状況に陥るとなかなか抜け出せません。なぜなら、そこから抜け出すには自分を変えなければならないからです。この場合、自分を変えるとはそのような痛みや苦しみ、悩みに対して正面から向き合って、それを乗り越えるということです。この小説は非常に簡単化すれば、人はどのようにして危機に陥り、どのようにしてそれを乗り越えるかを描いた作品だと思います。そして、読者も乗り越える苦労を追体験させられます。結構キツイです。個人的には、蜜の視点で読んでいたため、鷹と菜採に対する嫉妬という名の危機を乗り越えることができたかどうかは疑問です。ただそんな時、菜採の次の言葉を思い出します。「昨夜ずっと考えているうちに、私たちがその勇気さえもてば、ともかくやり始めることはできると思えてきたのよ、蜜」
「生き延び」ないといけないにしても。 おすすめ度
読んでいると不愉快が雪の奥でも進行する腐敗さながらに押しよせてくる。そしてその不愉快は細部から喚起されている。つまり、うまいぐあいに読者は小説世界にのみこまれてゆく・・・。してやられるのである。読んでいる期間に私はこの村のリアルな夢を見たほどだ。
いつもながらの大江の大道具小道具が出てきて、しかもそれらは重層的構造的に相互作用する。太い枠組みのうちにみっしりと詰め込まれた古い文書、新しい文書――まるで蔵の奥から取り出してきて眺めるみたいな――を読んでいく感覚である。
「救済」がテーマのひとつになっている。それはとても気に入らない。蜜にはやはり出口が用意されており、彼は、いちばんさいしょ入っていた「穴ぼこ」、それからさいごに入っていた「穴ぼこ」からも、出ていくことをする。私は用心に用心してその救済や希望を拒否するつもりでいたのに、大江の強い引き縄のせいで解決や希望や期待や救済や和解の方面へずるずると引っ張っていかれた。これこそすばらしい大江の手腕というわけなんだろう。だがそれでも読み終えて私は憮然とする。蜜や菜採子が子どもたちを育てる決心をし、谷間から出てゆき、鷹への無理解を理解し、鷹の骨はS兄の骨とともに墓に入り、鷹は御霊となり・・・などなどに私は満足できない。結局は出ていって「生き延び」ないといけないにしても、だ。甘い、ちいさい、ということをどうしても思う。
いつもながらの大江の大道具小道具が出てきて、しかもそれらは重層的構造的に相互作用する。太い枠組みのうちにみっしりと詰め込まれた古い文書、新しい文書――まるで蔵の奥から取り出してきて眺めるみたいな――を読んでいく感覚である。
「救済」がテーマのひとつになっている。それはとても気に入らない。蜜にはやはり出口が用意されており、彼は、いちばんさいしょ入っていた「穴ぼこ」、それからさいごに入っていた「穴ぼこ」からも、出ていくことをする。私は用心に用心してその救済や希望を拒否するつもりでいたのに、大江の強い引き縄のせいで解決や希望や期待や救済や和解の方面へずるずると引っ張っていかれた。これこそすばらしい大江の手腕というわけなんだろう。だがそれでも読み終えて私は憮然とする。蜜や菜採子が子どもたちを育てる決心をし、谷間から出てゆき、鷹への無理解を理解し、鷹の骨はS兄の骨とともに墓に入り、鷹は御霊となり・・・などなどに私は満足できない。結局は出ていって「生き延び」ないといけないにしても、だ。甘い、ちいさい、ということをどうしても思う。

