輝く日の宮[予定価格] (文芸第一ピース)
作者 丸谷 才一
価格 1,890 円
出版社名 講談社
出版年月 2003/06/10
Amazonの詳細ページへ
    第31回 泉鏡花文学賞   受賞
源氏物語を巡る、10年ぶりの書き下ろし小説。美人国文学者が水の会社の役員との恋愛を経ながら、失われた源氏物語の一章の謎を解く。6章全てを異なる形式、文体で描き日本文学の可能性を極限まで広げた傑作。

  この著者の他の作品を検索する

著者名をクリックすると、この著者の他の作品を検索することが出来ます。

書名か表紙写真をクリックすると、 Amazon.co.jp の詳細ページに移動できます。

商品を購入する際は、移動先の Amazon.co.jp の購入ページにて、商品価格・在庫の有無や納期をよくご確認のうえ、お手続き下さい。



■商品案内

???前作『女ざかり』から10年ぶりの刊行となる丸谷才一の『輝く日の宮』は、『源氏物語』の1巻として実在したかもしれない「輝く日の宮」成立の謎をめぐって展開する文学史小説である。

???物語の主人公は、江戸後期から明治までの19世紀日本文学を研究する杉安佐子。安佐子は元禄文学学会で、芭蕉の出立の理由を御霊信仰と結びつける新解釈を専門外の立場から示し、学会の重鎮の反発を買う。さらには『源氏物語』には、光源氏が藤壺と最初に関係する情景をつづった幻の1巻「輝く日の宮」が存在したが、紫式部の雇用主であり批評家でもあった藤原道長の命によって削除されたとの説をシンポジウムの場で唱え、ライバル心を燃やす女性源氏研究者との間に軋轢(あつれき)が生じる。想像の翼を自由に羽ばたかせ独自の論を展開し、閉鎖的な学会の制度と果敢に闘う安佐子の研究生活と彼女の私生活に密着した物語が主要な部分を占める。

???全体は7つの章から成っている。安佐子の将来に微妙な影響を及ぼす、彼女が中学時代に書いた泉鏡花ふうの短編小説がまず提示される。その後の章では通常の三人称小説の形式に加え、作者らしき語り手が登場したり、年代記ふう、戯曲形式などバリエーションに富んだ語りの形式によって物語が語られていく。章ごとに異なる語りの趣向は、小説という表現形式(内容)そのものに対する根源的な「批評」になっている。

???物語の終盤、自然教育園の森にたたずむ安佐子の脳裏に、「輝く日の宮」をめぐって対話する紫式部と藤原道長の姿が浮かんでくる。千年の時を往還して安佐子と紫式部というふたりの登場人物は一体化し、「輝く日の宮」そのものが復元的に提示される最終章へとつながっていく。

???作中で安佐子が『源氏物語』の特徴として指摘する、作中人物間や出来事の決着がつかないまま物語が閉じられるオープン・エンディングの手法が、この作品にも採用されている。物語の結末は、読者の自由な解釈と想像に委ねられている。本書は、国語教育や学会の現状に疑義を呈した批判の書であり、推論と考証に裏づけられた画期的な源氏論であり、歴史と虚構を融合させた知的エンターテイメント作品であり、小説という形式によってしか表現できないフィクションの領域を可視化した、つまりは小説の小説性そのものを作品化した究極の「小説」である。(榎本正樹)



■読者の評価     おすすめ度平均

“文学的なるもの”の意味を考えさせられる問題作       おすすめ度
 主人公の女性国文学者が、シンポジウムで論敵に挑発され、「『源氏物語』には「輝く日の宮」という章が存在していた」という自説を“小説形式”で書くことになる。この著作自体が、主人公の日常生活や恋愛を描く普通の小説の側面を持つ一方、“「輝く日の宮」の存在を実証する小説形式の読み物”でもあるというメタ構造になっている。著作の最後で「輝く日の宮」そのものまで再現してしまうという念の入れ様だ。作者の古典に対する教養、知見が存分に発揮されており、知的エンターテインメントとして一級の作品に仕上がっている。また、藤原道長と紫式部、光源氏と紫の上、主人公と恋仲の男性、という三組の恋愛模様がパラレルに描かれており、洒落た恋愛読本としても楽しむことが出来る。筒井康隆「文学部唯野教授」を思わせる学会、論壇諷刺があったり、衣装描写に関して斎藤美奈子「文学的商品学」の丸谷評に対する返答と思われる記述が見られたり、作者のテクスト論や小説論に対する考え方が散見出来たりと、読み物としてのサービスも満点である。

 但し現代の文学が担っている、時代的な問題に対峙する要素はこの作品には無い。あるいは意図的に避けている。それは、1990年代の社会事象と主人公周辺の出来事を年譜形式で機械的に並べたり、主人公が知らないうちに社会的事件とニアミスしていたり、という時代と個人の描き方に顕著である。作中、「文学」に対抗する概念として芭蕉が口にした「風雅」について触れているが、作者は意図的に「文学」的なるものを回避し「風雅」的なるものを標榜している節が見られるのだ。こうした作者のスタンスと作品価値をどう評価するかは大きく意見の分かれるところだろう。



手に入るうちに読むべし。       おすすめ度
丸谷才一氏の小説として初めて読んだのが本作品。最初に読んだのは「文章読本」で、その中でもともと東大英文科出身の丸谷氏が、文章作成における上達の秘訣もさることながら、我が国の古典文学に対する造詣の深さをも存分に我々に知らしめていた。その文学者としての幅の広さ、厚みに感銘を受けたのがちょうど去年の今頃。そして今回かなりの期待感を持って読んでみたが、従来の小説とは一線を画する試みというか、手法が取り入れられていて丸一日時間があれば一気に読んでしまいそうなくらいの面白さであった。読直後、思わず唸らされた。氏の作品はほんの十年くらい前の作品でも入手しにくい場合があるので、手に入れやすい今のうちに購入して読むべし。読後に新しい何かを発見するであろうことは言を待たない。


なんともいえない雰囲気       おすすめ度
丸谷さんの作品は文章が魅力的。エッセイしか読んだことがなかったが、とても面白かった。取り上げた題材にも興味があったこともあり、中盤から後半にかけてはすっかり引き込まれ、あっという間に読み終わってしまった。ハードカバーは値段的に敷居が高いが、内容によります。
表紙のカバーもとても美しい。


スリリングな体験       おすすめ度
すごい。今年衝撃を受けた本の一つとなりました。源氏物語の素養がない私は題名から何のインスピレーションもわかず、同僚のI女史が「いいわよ」とすすめてくれたときも実感もわかず読み始め、しかも若い女性日本文学者のとりとめもない物語なので飽きてきてしばらく放置してありましたが、今日すべてを読みきって感服しました。

 物語は途中からもう一人の宿敵の女流日本文学者との対決となり、「源氏物語」の中の書かれなかった、あるいは書いたけれど失われた、存在のみ推測される「輝く日の宮」章の存在論の丁々発止のシーンとなります。これがすごい。源氏を知らない私でも思わず引き込まれるすさまじい論争で、主人公はついにその「輝く日の宮」を想像上で文学として書かされるはめになる・・。

 途中から推理小説を読むようなスリリングな展開となり、丸谷の実験的な文体(一部を戯曲に仕立てたり)もあいまって、非常に読み応えのある文学となっっています。紫式部の私生活の考察も面白い。丸谷のおそらくライフワークであろう源氏研究の結論がここに集約されているのでしょう。

 興奮した私はさっそく「瀬戸内源氏」を入手しました。これから私は源氏を読むぞ!



教養小説(源氏物語が読みたくなります)       おすすめ度
 最初(第0章)の不思議な泉鏡花風文体の短編小説に「は?何これ」という思いながら読んでいくと、この本の中に込められた教養と文体の工夫(章ごとに表現方法を変える)に思わずうなり、これを読めば日本文学についてちょっと通になれるかもというスケベ心で読んでいくうちに、ストーリーの先を知りたい(源氏物語に仕掛けられたミステリーの答えが知りたい)状態になり、一気読みしてしまいました。
 さすが丸谷才一、職人ですねえ。瀬戸内氏に続きこの本のおかげでまた源氏ブームが起こるのではないのでは(少なくとも私は源氏物語を原文で読めるようになりたいと思いました)。

 また、このヒロイン安佐子とその家族のたたずまいの上品さが見事です。もう失われてしまった日本の知的階級家庭の!理想的な雰囲気が描かれていて、憧れます。安佐子も愛嬌があって(とても可愛らしい)、教養があって(国文学者)美人で、でも男を縛ろうとしまいで、と理想的です。

 この小説のテーマの一つは源氏物語だし、もう一つは「時間」だと思いますが、ラスト近くで安佐子が植物園で紫式部を幻視する場面は時間に関して不思議な感覚・感動を与えます。このシーンを読むためにもぜひ太い本ですが読んで欲しいと思います。