六〇〇〇度の愛
作者 鹿島田 真希
価格 1,470 円
出版社名 新潮社
出版年月 2005/06
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    第18回 三島由紀夫賞   受賞
絶望に浸ろうとする女と、再生へ向かおうとする男、二人はかつて六〇〇〇度の雲に覆われた土地・長崎で出会う―。28歳、世界文学の新鋭が描き上げた愛の物語。

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■読者の評価     おすすめ度平均

三島由紀夫賞はどうなっているのか?       おすすめ度
三島賞受賞作だが、いったいなぜ受賞したのか理解に苦しむほどに不出来な小説である。第一に、書かずにいられずに書いたという意欲がまるで感じられず、300枚程度の長編を注文されてひねり出したように見える。長崎へ行った女と、そこで出会った混血青年の、通俗小説めいたセックス描写が、長崎の原爆と重ね合わせられ、ロシヤ正教に関する知識がちりばめられて描かれているだけで、何の感興も呼び起こさない。フランスの小説や映画には、よくこういう退屈なものがあるが、それのまねだとしたら、別に言うべきことはない。面白いと思う人がいたらいたで構わない。しかし私にはちっとも面白くなかった。


一瞬にして欲望を焦がす、大人な愛       おすすめ度
火災警報のサイレンをきっかけに、日常から、母から、兄から、そして自分自身から逃げ出した主婦の主人公と、自分の身体のコンプレックスがゆえ深い孤独を背負うロシア人青年の一瞬の魂のふれあいと別れ。愛のかけひきがものすごく意地悪なのに、そんな愛が妙に魅惑的にみえた。


結局何が言いたいの?       おすすめ度
 って思わないでもないし、だけど、じゃあ、つまらない?といわれても首をひねる。この小説は面白い。そもそも文学、特に純文学はそういう、結局何なの?みたいな特性を秘めている。
 さて、あくまで受動的な主人公。兄に母親の愛情のすべてを奪われ、兄を有、自分を無と定め、暮らしていた主人公。自分の考えは出せず、相手の言われるがままの態度を取る。そんな、今は一児の母親である主人公が、逃避先の長崎で出逢った青年との恋愛。青年も主人公と同じく、受動的な存在で、主人公は青年を傷つけることで、(たぶん)有を獲得しようとする。極論を言ってしまえば、そんな一瞬の成長とカタルシスを描いた小説。
 にしても、その恋愛の全体の背景となる長崎、あるいは原爆とのかかわりが最後までわからなかった。青年のアトピーの肌は、原爆で焼け爛れた肌の比喩か? 原爆は有を無へ変換するものか? 一読しただけではよくわからん。
 面白かったけれど。


『二十四時間の情事』の真似?       おすすめ度
文章のうまさは得難いもので、
ロシア正教関連の薀蓄も嫌味にならず、
それなりに成功していると思うが、
結局、なぜ「長崎」で「原爆」なのかという点については、
読み終わっても、今ひとつ釈然としない部分が残った。

そもそも、人が衝動的な旅の目的地に長崎を選んだりすることに、
とりたてて理由などはないのかもしれないし、
この作品の全編に漂う雰囲気も、明らかにそうしたものなのだが、
そういうふうに読めてしまうとしたら、
やはり基本的な構想のどこかに
失敗があったと言わざるを得ないのではないか。

当初からの書き手の狙いが、
読者の側の先入観をいくぶん裏切ることにあったとしても、
そのことに変わりはないと思う・・、と書いてきて、
今になってようやく思いついたのだが、これって要するに、
『二十四時間の情事』の単なる真似なんだろうか。

もし本当にそうだとすると、なんというか、
「志が低い」としか言いようがないのだが・・


天使の断片       おすすめ度
今年の芥川賞もそうだったが、近年ポッと出の、もとい、実にフレッシュな若手作家が、受賞の栄誉に与ることが多くなってきているように思う。しかし、実際のところこれはどうなんでしょうか。エンタメ系ならすぐにでも直木賞欲しいんでしょうが(※ただし賞味期限最長二、三年・大沢在昌談)、純文系は。筆暦浅いうちに芥川賞ゲットして、あとは消滅蒸発忘却の彼方の貴方になるより、デビューしてホップ、次にまずは三島賞でステップ、そして芥川賞でジャーンプといきたいのが理想なんではありますまいか。何やかやいっても、受賞暦は派手なのがいいわけだし、三島賞を経て芥川賞というケースは間々あれど、逆はないようで(だよね)。暗黙の了解が出来ているかは知らんけれど、阿部和重は『インディビジュアル・プロジェクション』で三島賞取っていたら、もっと早く芥川賞を掴んでいたのかも。この伝でいけば、今一番割りを喰っているのが、絲山秋子なのではないか。三島はおろか芥川もすっ飛ばし、いきなり川端康成文学賞をゲット。彼女が今回直木賞にノミネートされたのは、文壇双六的秩序に配慮した結果なのでは。文壇くそたわけ。
 さて、本作は本年(2005年)の三島賞受賞作。或る女のアイデンティティー回復に「被爆地」の磁場が作用する。フラッシュバックする記憶の断片の中で渇きが癒されぬなか、アトピーで肌が爛れた青年と逢瀬を重ねる。本作のミソは青年との関係性を、被虐‐加虐として取り結ぼうとたくらみ、以て自己回復に充てようと女が振舞う点だろう。そして、それを断念し青年から、「被爆地」から遠ざかることで、彼女は自己を同定させる。彼女の描く「小説」は、そのぶん分裂したものになるのだろうか。それとも採用される「記憶」に強かな選択が働くか。
 というわけで、鹿島田さんの今後に期待。