風の歌を聴け
作者 村上 春樹
価格 1,260 円
出版社名 講談社
出版年月 1979/01
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    第22回 群像新人文学賞   受賞
1970年の夏、海辺の街に帰省した〈僕〉は、友人の〈鼠〉とビールを飲み、介抱した女の子と親しくなって、退屈な時を送る。2人それぞれの愛の屈託をさりげなく受けとめてやるうちに、〈僕〉の夏はものうく、ほろ苦く過ぎさっていく。青春の一片を乾いた軽快なタッチで捉えた出色のデビュー作。

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■読者の評価     おすすめ度平均

村上春樹の技術について       おすすめ度

 デビュー作ということもあり、文章はまだまだ下手っぴな部分も多いが、この直後にやってくる80年代
的Coolness&Popnessの先駆的意匠というアプローチから読めば、実はかなり前衛的な純文学だったと言え
るかもしれない。内容自体はどうでも言いっちゃどうでも良く、読んでいて小っ恥かしくなる──二十歳そ
こらでそんなこと言う奴いるかよ的な──場面も多く、個人的には好きな作品とは言えないまでも、結局、
村上春樹の村上春樹たる最も偉大で稀有な資質とは、テキストを上滑りながら読んでも読者を作品の本質と
いうか内奥にまで接近させる技術にあるのだと思った。
 他の純文学作家の場合、大前提として読者は、そのテキストと極めて近い距離から半ば文学的格闘を通じ
てその作品を読む必然に駆られる。つまり、適当に上滑りつつ読みなぞっていても作品世界の内奥に没頭す
ることができないのが他の純文学ほとんど全てに通じる最低条件だったりするのだが、村上春樹には、特に
深い入りすることもなく表面を適当になぞっているだけでも作品の深い部分にまで読者を引きずり込む魔力
がある。その魔力自体は必ずしも芸術的価値のある構造的特質というわけではないものの、それでも、興味
のない読者までをも作品のボトムスに引きずり込む作力だけは評価していい。(アンチにまで何かを奮い立
たせる作家はそう多くないだろう。)
 とはいえ、作品の内容をあれこれ議論する程度の世界観でもないだろうというのが率直な感想。つうか、
ほとんど内容とか細部を、もうほとんど忘れてる。謎めいた女の登場人物がややショッキングな打ち明け話
をするという必殺技はカポーティーの『草の竪琴』からの飛び切りのインスパイアだったのか、その後の彼
の作品でも必ず登場するお決まりのプロット(筋運び)である。そう考えると、登場人物にほとんど真相を
語らせることなく作品に衝撃の結末を用意してしまうレイモンド・カーヴァーに、彼が自分とは正反対の
ハードボイルド観を見出して大きな衝撃を受けたであろうことも素直に納得できる。
 ちなみに、「完璧な文章」は必ず存在します。ただ、我々がそれを遂に見る事がないというだけのことで
す。完璧を目指して絶望するのと、完璧の不在を拠り所に最初からに絶望を回避するのとは、全く意味が違
うばかりでなく、いちいちそんな言葉を有り難がっていること自体が一つの大いなる絶望を招くということ
に早く気づいた方が、方向感覚を剥奪された真っ暗闇の海上から微かな岸辺の灯を見つける日もそう遠くは
ないってもんだろう。



巧みに作り込まれた作品       おすすめ度
私は本を読む時、どうしても、はっとするような思想に出会いたい、
と思ってしまう。
そういうスタンスの読者にとっては、気分の良くない作品だ。
結局、主人公の僕、の物憂さの原因の一つは、きっと、
恋人が自殺したこととか、なのだろうとわかる。
その事を書く時、読者を引き込もうとする為に、ぽそっ、と書き、また、さっ、と
場面転換し、忘れた頃に、また、ぱっ、と出す。
自殺とか、そういう重い話を、そうやって、物語を引っ張るための、
小道具にしている感じがして、嫌なのだ。
ああ、そうか、「僕」はその事件がネックになっているのだな、
という共感は持てるかもしれない。
しかし、人間関係そのもの、とか、死、そのものについて、
何かを語っている小説を読みたい、と願うものにとっては、
本当に、空疎な作品に思えてしまう。
もっとも、作者は、青春期の、そういう死とか人生に対して、
受け身にならざるを得ない若者の姿を書きたかったのかもしれない。
そういう点が、若い読者をひきつけるだろう。
「嘘」ということも、この作品の重要なモチーフである。
何だか、この作品自体が、巧妙な嘘に満ちているような気もする。
ハートフィールドのこともそうだし、ラジオ投稿の難病少女の手紙も、
作者は、読者を騙して笑っていたりして・・・。
トリッキーな作品ではある。


重くも軽くも       おすすめ度
登場人物たちは重いものを感じさせるが、文章は軽いものを感じさせるものだった。きっとそのギャップが、この作品から漂う曖昧な空気に満ちた空間をつくっているのだろうと思った。湿っているような、でも乾燥した流れに乗っているような。友達に一読すべきと言われて読んで良かったと思う。その雰囲気にふっと引き込まれてしまった。捉えどころがないけれど、著者はしっかりと物事の本質を見極めていると感じた作品だった。


ただの青春小説じゃなくて       おすすめ度
わざわざ僕が言うまでもなくこの小説が「ただの青春小説」
じゃないことくらい分かりきったことですが、あえて言います。
この村上春樹さんの群像新人文学賞を受賞したデビュー作『風
の歌を聴け』は、ただの青春小説じゃないんです。
メタフィクショナルな構造で書かれたこの小説に登場する作家
デレク・ハートフィールドは架空の作家ですが、復刊ドットコム
にリクエストを出してしまうほどリアルに描かれています。僕も
初めて読んだときはそう思いましたが、少しして、「村上さんの
創作なんだろうな」と理解しました。
この、デレク・ハートフィールドが素晴らしい。

僕の村上春樹のベストは後にも先にもこれです。この作品を一生
読んでいくと思います。ふとした一瞬に「あ、読みたい」と思わせる
力がこの本にはあるから。


灰色じみた蒼       おすすめ度
この作品を色で表すとしたら、灰色じみた蒼か、灰色じみた緑だと思う。とにかく灰色が入っているイメージだ。それは、「鼠」というへんてこな人物が登場するからかもしれないし、文章の静謐さ、簡潔さ、つめたさからきているのかもしれない。
作品世界は、どこまでも性的な世界だな、と思う。
村上作品に出てくる主人公の「僕」は、女性の読者からしたらどれも非常に中性的で、男性性が押さえ込まれている。彼のしたセックスだって、なんだか即物的で簡潔で、いやらしさがない。
でも、その抑圧された男性性が、女性の読者にとっては、なぜか余計に性的に感じられる。主人公が、自己主張のあまり無い、わけのわからない青年であるにも関わらずとても魅力的に思えるのは、そのためだろうと思う。この「僕」は、すごくセクシーだ。分かりやすいセクシーさじゃなくて、なんだか、心の底からくすぐられるセクシーさなのだ。女性読者はそれをかぎつけて心酔するし、男性読者はそれに共感する(のではないかと思う)。
この感想は、村上の他の作品『ノルウェイの森』の主人公に対しても抱いた。村上の描く「僕」には、そういう共通点がある。とても魅力的だ。

わけもわからず、さらっと読めてしまう短編。わけもわからないだけに、何回読んでも飽きたりしないし、何回でも求めてしまう作品。