本陣殺人事件 (角川文庫―金田一耕助ファイル)
作者 横溝 正史
価格 660 円
出版社名 角川書店
出版年月 1973/04
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    第1回 日本推理作家協会賞   受賞
一柳家の当主賢蔵の婚礼を終えた深夜、人々は悲鳴と琴の音を聞いた。新床に血まみれの新郎新婦。枕元には、家宝の名琴「おしどり」が…。密室トリックに挑み第一回探偵作家クラブ賞受賞。

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■読者の評価     おすすめ度平均

密室殺人事件       おすすめ度
本書は、本陣殺人事件の他に二つのショートショートがついている。

『本陣殺人事件』は密室ものである。途中で筆者は金田一に密室の探偵小説について語らせている。曰く、犯人がある方法で−針金だの紐だのを使ってですね−あとから錠だの閂だのをおろしておいた、などというのは感心しない・・・
であるならば、本件はこういうトリックではないということが分かる。
ではあくまで密室なのであろう。しかし、犯行に使われたと見られる凶器は部屋の外にあるのである。となると・・・

『車井戸はなぜ軋る』は、酷似している異母兄弟が戦争から帰って来る、が、一人は戦死し一人だけで。さあ、その本人はどちらか、というのが話しの中心である。何か犬神家の一族にこんなのがあったような・・・

『黒猫亭事件』は「顔のない屍体」ものである。筆者曰く、探偵小説には「一人二役」型だの、「密室の殺人」型だの、「顔のない屍体」型だのがある。後の二つは途中でそれと気付くが、「一人二役」型は読者に感付かれたが最後、その勝負は作者の負けであると。また、「顔のない屍体」は、十中八九被害者と加害者がいれかわっていると考えて間違いはないと。
さあ、本件のトリックは如何に・・・
この作品の最後にこういう文章がある。
「私は正直にいうが、見破ることが出来なかった。読者諸君はいかに?」
至らない作家がこんなことを書けば噴飯ものだが、この作家に言われるとどうにも、にやりとして、ああ分からなかったよ、と言うしかないのである。

三篇の内では『本陣・・・』が有名なのだろうが、トリックとしては『黒猫亭・・・』が一番練れている気がした。


黒猫と井戸       おすすめ度
 「本陣殺人事件」「車井戸はなぜ軋る」「黒猫亭事件」の3篇が収められている。いずれも中篇という分量である。
 「本陣殺人事件」は金田一耕助のデビュー作。本格的な密室トリックが使われており、著者の代表作としても広く知られている。しかし、正直なところをいえば、それほど優れた作品とは感じなかった。トリックもアレだし、真相もいまいち。探偵小説史上、貴重な作品だとは思うが。こういう、正面から取り組んだ密室トリックは著者は得意でないのでは。
 「車井戸はなぜ軋る」は、煮え切らない作品という印象。
 「黒猫亭事件」が、本書では最良なのではないか。プロットにトリックが組み込まれており、ついついだまされてしまう。読者への挑戦の仕方も粋だし、サービス精神に満ちた一編と思う。


『オペラ座の怪人』『クマのプーさん』と金田一の関係は?       おすすめ度
本書は第二次大戦後、国内で初めて発表された本格推理小説で、
金田一耕助初登場作品にして、第1回日本探偵作家クラブ賞(現在
の日本推理作家協会賞)を受賞した、作者の代表的傑作である。
本書の魅力は大まかに次の3つである。

1)本格的な密室トリック
作者いわくはカーター・ディクスンの『プレーグ・コートの殺人』に刺激
を受けたとのことだが、密室トリックに類似性や関連はないに等しく
(『プレーグ・コート〜』は、密室の構成方法という点では機械トリック
ではなく、むしろ心理トリックのように思う)、「雪の密室」という点から
はむしろ『白い僧院の殺人』を連想する。
またこれも作者の言だが、ガストン・ルルーの『黄色い部屋の秘密』
を意識して、「黄色い部屋」に対してべにがら(紅殻)塗りの「赤い部
屋」に仕立てている。
(ルルーの作品はミュージカルのおかげで『オペラ座の怪人』の方が
すっかり有名になってしまったが、『黄色い部屋〜』は江戸川乱歩が
名作推理ベスト10の2位に挙げる、密室ものの古典である。)
なお、私は本書の密室トリックについて、クリスティー唯一の密室も
のの長編『ポアロのクリスマス』に近しいものを感じる。一度読み比
べられたら面白いと思う。

2)謎の三本指の男
この謎の三本指の男のように、たとえば『獄門島』の謎の靴跡の男
や『犬神家の一族』の復員兵とか、『悪魔が来たりて笛を吹く』の椿
子爵(に似た人物)、『悪魔の手毬唄』の「おりん」など、本書以降も
作者は様々な作品で謎の人物を徘徊させているが、とくに本書では
これが謎を深めさせ、怪しげで不気味なムードを醸し出すことに成功
している。

3)金田一耕助の登場
本書の最大の功績は、金田一耕助を登場させたことに尽きるので
はないだろうか。
本書とほぼ同時に発表された『蝶々殺人事件』と本書について、江
戸川乱歩ら職業的推理作家たちは本書に軍配を挙げ、坂口安吾ら
純文学作家たちは『蝶々〜』を支持したらしい。
もはや好みの問題だろうが、私は金田一の登場しない『蝶々〜』に
は味気なさを覚える。もしも本書に金田一が登場していなければ、
きっと同じように感じたことだろう。

なお金田一耕助のモデルは、本書で作者が記載しているとおり、
A・Aミルンの『赤い館の秘密』(本書では『赤屋敷の殺人』と記され
ている)に登場するアントニー・ギリンガムで、『赤い館〜』は江戸川
乱歩が名作推理ベスト10の8位に推した作品である。ちなみに『赤
い館〜』の著者A・Aミルンは、『クマのプーさん』の作者である。

もう一つついでに、本書に記されている金田一耕助が解決したアメ
リカでの事件について、ヴァン・ダインの『僧正殺人事件』の続編と
して、『僧正の積木唄』という作品が山田正紀によって執筆されて
いる。
(この中でファイロ・ヴァンスと金田一耕助のコラボが実現している)


「超然と孤立していた」横溝正史、戦後 最初の長編探偵小説。       おすすめ度
角川文庫新版を購入し、旧版にあった「解説」が無くなっていることに気づき唖然とする。旧版の「解説」では、大坪直行氏がこの小説の誕生背景を語ってくれていた。正史が岡山県吉備郡岡田村に疎開し、敗戦後直ちに執筆活動を開始したこと等。更に正史自身、『金田一耕助のモノローグ』(角川文庫)で、詳細に疎開前、疎開後、敗戦後の生活を具体的に語っている。が、この書も現在では古本屋でしか入手困難となっている。正史が、疎開前に既に本格的探偵小説の構想があり、瀬戸内海の島々を射程に入れており、岡田村に疎開した時、戦争絶対反対者であり、戦争協力せざるを得ない窮地時は青酸カリ服用・「家族無理心中」の覚悟をしていたこと、玉音放送を聞いた瞬間「さあ、これからだ!」と内心叫び、直ちに、執筆の準備を開始、執筆時は言葉があふれんばかりであったこと。岡田村界隈の探偵小説大好きインテリが情報を提供し、共同作品の様相。上京せず、岡田村発の作品を発表、まさしく日本国で「超然と孤立していた」と語る。この勢いが『本陣』では、見事にでている。伏せ字が伏せ字で無く読める近辺で生活している者達は有り難いやら得意であったり。尚、吉備郡は消失し(平成17年)、岡田村は真備町を経由して倉敷市に位置づけられている。


面白いです♪       おすすめ度
さすがに日本ミステリーの最高峰とか、言われてるだけのことはあります。凄い密室トリックです。こんな上手くいくのかなぁとは思うけど、現実で実行可能かは分からないしそんなの論外で、要は机上で論理的に解決されれば、本格ミステリーは上上なわけで。その辺は島田掃除のトリックに共通するのではないでしょうか。琴糸であるとか、日本刀であるとか、日本屋敷、そして本陣のある某村であるとか、、、昭和前期の雰囲気がとてもよく出てますんで、いいですね。それにしても、3本指のオヤジさんが、とても可哀想です・・。こんなとこ来なけりゃ良かったのにね(笑 残りの車井戸と黒猫亭も、かなりのレベルではないでしょうか。3編は横溝さんの黎明期のころのものらしいですが、さすがに完成度が凄いです。同時期に執筆されたという金田一ではないけど、蝶々事件がまだ未読なので、早く読みたいと思ってます!