ミステリアスセッティング
作者 阿部 和重
価格 1,575 円
出版社名 朝日新聞社
出版年月 2006/11
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■読者の評価     おすすめ度平均

ケータイで読みたかった!       おすすめ度
 ケータイを使いこなすことができず、ケータイに振りまわされている自分としては、ケータイ小説というものが信じられなかったのだが、まさか阿部和重がケータイ小説を書くとは……ケータイで読むべきだった!あの小さな画面で無限のスクロールを重ねれば、もっとあのスリリングな展開を味わえたのに!
 もちろん女の子を主人公にしたストーリーはいつもながらにばかばかしく(もちろん褒め言葉。もっとも男の子が主人公のほうがいっそうばかばかしくて涙ぐましいけど)、主人公シオリのうっとおしいまでにピュアなキャラも、妹ノゾミとの淫靡な関係性も十分におもしろく、ここちよく読むうちに、加速度的に悲惨な運命に突き進んで行くところは阿部節全開。暗闇を駆け抜けるタイプのジェットコースターに乗ったみたいに、地方都市から東京へ、東京タワーの展望台から都内の地下鉄で二番目に深い所にあると言われている千代田線国会議事堂前駅の地下ホームへと、左右上下に振りまわされ、気がつくと減速した車両は明るい出口へ。はい、物語はおしまいです。
 電車が駅に着いてしまったり、充電が切れたり、接続がうまく行かなかったり……という状況でケータイに振りまわされつつ読みたかったかも……と思いながら、最後まで指でページをめくり続けてしまった。


エンターテインメント小説       おすすめ度
読み始めてすぐに、これは文学ではないな、と思った。読み終えた今でもその印象は変わらない。これはエンターテインメント小説である。その分、阿部和重の小説としては物足りない。携帯の小説サイトに連載したということも関係あるのだろうか? 文学とは呼べない軽さ。それがいい意味での軽さになっていない。文体は平易になっているものの、内容まで薄くなってしまってはしょうがない。


変な小説       おすすめ度
 ストーリーはヘンテコだがわかりやすく、読みやすい作品。後半は何度か吹き出してしまうような可笑しさ(自称ポルトガル人のマヌエルだとか、スーツ型核爆弾を受け取ってしまった主人公が本気でうろたえている所だとか)があって面白かった。
 しかし、それにしても阿部和重という作家がこういう作品を書くと、何となくその意図を深読みしたくなってしまう。それとも発表形式も雑誌連載という形ではないし、このヘンさは作者の遊び心というものだったのだろうか。
 私は、「純粋な少女」「自己犠牲」「世界の破滅の危機」だとか幾つかのサブカル的なポイントを意識的に配置して、一種スカスカした感動ストーリーを作り出す、というような作者の悪意も含んだ意図すら感じられるような気がする。あるいは、語り手の老人が語っているのは舞台の2011年よりもさらに何十年も後の日本であるはずだから、「未来のリアリティー」というのはこういうもので、現在の私たちには一種の違和感を与えるものなのだ、ということなのかもしれない。ともかく、私はこの物語を真面目に受け取ることはできなかった。
 しかし、やはりあっという間に読み終わるくらいに面白かったから、あまり野暮な詮索はやめた方が良いのかもしれない。
 


これまでの著作に比べると「女子向け」       おすすめ度
阿部和重さんがはじめて女の子が主人公の小説を書きました。
彼女は吟遊詩人を夢見る、
動物が大好きな純粋無垢な女の子。
この作品の存在は、
女性の阿部和重ファンにとってはとても嬉しいはず!
これまでとは比べ物にならないほど「女子向き」です

そのせいか、
今までの阿部作品にはない繊細さと優しさがありました。

主人公のシオリはどんなに過酷な状況に置かれても、
決して人を恨むということをしない。
むしろそういった発想を持たない。
彼女が悲しい思いをしてしまうのは、
純粋さ故に人を信じすぎて、人に利用されてしまうから。
汚れのなさが自らを不幸へ追い込んでしまう・・・。
最後の彼女の選択は本当に彼女らしすぎて呆れちゃうほどだけど、
でも私はこんな生き方しかできなかったバカなシオリが大好きです。

後半はスーツケース爆弾なんて物騒なものが彼女を翻弄し、
どんどん破滅へと向かっていくのだけれど、
ラストは穏やかで美しかったなぁ
シオリの悲痛だけど優しい泣き声が耳に届いてきそうで・・・。

ただし、ちょっと気になったのは
他の阿部作品より明らかに「読みやすい」こと。
大爆笑とはいかないけれど、
読者が思わずニヤリと薄い笑みをこぼしてしまうような
独特の堅苦しい言い回しが今回はあまり感じられない。

主人公が純真無垢な少女だから
あえて堅苦しさのない書き方をしたのかもしれない。
作品の世界観を考えればこれで正解なのかもしれないけど、
コアな阿部ファンとしては少し物足りなさも感じました。


大きな世界観       おすすめ度
敬愛する作家の最新作。本書も物語としても良質であります。日常の生活感から物語は広がり、やがて大きな世界へと繋がっていく。本書の主人公のシオリとその大きな世界との繋がりは誰も知らない。結果をしったストーリテラーが独りいるだけだ。しかしながら本書のシオリの日常の描写はつらさ、悲しさが切実にせまってくる。後半の物語とのギャップが凄い。日常から、非日常。日常の感覚は我々も生活しているので本当にこんなことがあったら辛いだろうなーという感覚を共有できるが、後半の世界観はまるで棒高跳びで日常を超えてきた感覚に襲われる。しかしながらその感覚は「無理だろ」というものではなく、「しっくり」くるものである。破綻していないのである。その大きな世界観は彼独特のものである。他のレビューでもあったが、本書は凄く「読みやすい」。その分だけ彼の世界観を知りたい人の「入門書」となりえる書であると思う。今日は山形県天童市でサイン会。あー楽しみ。