銭金について (朝日文庫)
作者 車谷長吉
価格 819 円
出版社名 朝日新聞社
出版年月 2005/03/17
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■読者の評価     おすすめ度平均

中身のつまったエッセイ       おすすめ度
 エッセイとしてたいへん中身が濃い。意識しているのだろうが、昭和前半の作家の文に近い気がする。
 辻邦生が嫌いだそうだ。辻作品は西洋的知性があり本格小説を目指していて大変なプライドを感じていたが、そう言われると私小説の濃さの前では作り物のような気もしてくる。その慧眼で曽野綾子についても見抜いてほしいものだ。
 嫌いな知人についてどれだけいやなやつかについて追悼文がわりの来歴を語った文章は爽快感がある。然るべき嫌う理由、経緯について読むと、実は多くの人が自分の人生でのある思いについて代わりに言葉にしてもらっったという気になるのではないだろうか。車谷氏と同じ大学出身で同世代で芥川賞作家のエッセイを少し前に読んだが「嫌いな人というのは自分のなかの克服したい部分が人の形をとって現れたものなんですよ(だからご自分をお振り返りなさい)」という意味のことをいっていた。もっともらしいし良識的で、僧侶という立場もある発言なのだろう。でも、そこまで悟りきるということと文芸はやや逸れるのではないか。だから車谷のエッセイのほうが面白いし、芸術という面、そして意外にも救いという点では一つ上なのだ。
 克服というもん(認識はつまり「もん」という関西弁で言い尽くせるのだということ、という展開も開陳されている。)についての疑念も語られている。車谷は高校受験に失敗したが、奮起して大学は慶応に合格した。普通ならば最もわかりやすい形で巻き返し、克服した、といわれる出来事である。しかし何十年たった今も高校受験の失敗を決して忘れない、その傷が自分の人生を規定してきたのだ、という。一度傷ついたものはそのまま、克服ということはありえない、克服したという人がいればそれは悟っている人か目でたい人だろうという。村上春樹も同じように受験について語っていたが、彼はたかがその失敗ぐらい、というスタンスをとっていた。村上は天才なのでこういう苦労はなかったのだろう。理解ができなかったのだろう。村上の意見以上に感心できる意見を一つでも述べる現代作家とういのはほかにいなかったので衝撃であった。