二度はゆけぬ町の地図
作者 西村 賢太
価格 1,470 円
出版社名 角川書店
出版年月 2007/11
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■読者の評価     おすすめ度平均

最低を志向する文学       おすすめ度
若き日の西村を思わせる「北町貫多」の日常が描かれる
北町は素行の悪さゆえにバイトを解雇されたり
酒や女に溺れて家賃を滞納し、家主と揉めたり
いけ好かない男を暴行し、警察の厄介になったりする

すべての原因は北町の狭量さと身勝手さにあるのだが
北町は他人の所為にしてばかりで、反省しない
だから、北町は成長しない
北町は同様のことを何度も繰り返し
その度に窮地に追い込まれる

だからといって、北町は馬鹿な訳ではない
北町は非が常に自分にあることを意識している
にも拘らず、北町は改めない
それは北町が覚悟をしているからだ
北町には「最低への意志」のようなものがある
それが何故かわれわれの心を動かす

北町は最低だ
その最低さはわれわれを喜ばす
われわれは北町に最低を求めている
「もっと、もっともっと低く」
われわれはそう願いながら、ページをめくる

われわれにも「最低への意志」のようなものがあるのではないか
もしそうだとすれば、北町はわれわれの影である
われわれは北町を笑えない
北町はわれわれだからだ


さわやかな短編に注目       おすすめ度
 私に文学的価値などはわからないのだが、この短編集の中では「春は青いバスに乗って」がもっとも楽しめた。残り三篇はいずれも独身男の貧苦と逆恨みと暴力と精液臭にまみれたおなじみの西村賢太小説で、それも悪くはないのだが、あまり立て続けだと飽きてくる。その点、横光利一の小説のタイトルをもじったこの短編だけがちょっと違うのだ。

 居酒屋のアルバイトで暴力沙汰を起こした主人公は警察に逮捕され、拘置所暮らしをすることになる。そうした中、同じ部屋にいた男たちと交流が生まれる。むろんそれもほんの一瞬のことで、出所とともに関係は途切れてしまうのではあるが、孤独と怨嗟の吐露が続く西村氏の小説のなかでは珍しい展開で、さわやかな気分になる。「あとになってこのときのことを考えると、私は彼らに本当にすまない思いがする。いったいに私は子供の頃から友人が少なく、自ら人との間に垣根をつくってしまう悪癖があったが、彼らはここでは右も左もわからずオドオドしていた私に、仲間意識で随分と親切にしてくれたになあ、とひどく悔やまれたものだった」。発表時期を見ると2006年と2年前のものだ。西村氏もおなじみの路線ばかりではなく、こうした方向性の作品をもっと発表してほしい。