もののはずみ
作者 堀江 敏幸
価格 1,365 円
出版社名 角川書店
出版年月 2005/07/30
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■読者の評価     おすすめ度平均

『あの貧しい木靴つくりの息子へ、』       おすすめ度
大好きな堀江さんのエッセイ本です。その「もの」に対するやわらかな視線と、ひそかな思い入れが融合したよい物語のつまった一冊です。「ジム・ボタン」の原作がミヒャエル・エンデだったり、「アメリ」のラストの二人乗り原付自転車が「ソレックス」と言うメーカーだとか、僕にとってうれしい発見もありました。


ものを美しく見せる「時間」の魔法       おすすめ度
 新聞に連載されていたと思しきごく短いエッセイのひとつひとつに、マッチ箱よりひとまわり大きいくらいの白黒写真がついていて、そこには全て、作者の愛した「もの」が写っている。堀江氏の小説を好きな人なら、この装丁を見るだけですでに笑みがこぼれてくるのではないだろうか。
 それは、主にフランスの古物市などで出会った、日用品、電化製品、文房具、玩具などで、いわゆる高価な骨董品というよりは、二十年から百年前にはごく普通の家庭で当たり前に使われていた、むしろ量産品だ。そういう「もの」との出会い、買おうかやめようかという戸惑い、店主との味わい深いやりとりが(というかそれだけが)書かれたエッセイだ。どうしてこんなに胸に沁みるのだろう。
 それは多分、ものとの出会いに、ささやかな幸せや愛しさが感じられるからで、そういうあたたかな優しさ、あるいはおだやかな痛みが、氏の小説の持ち味でもあるからだろう。人ひとりの運命を変える荒々しい瞬間、というものももちろん書かれているが、それはごく一部で、氏の小説の大半を占めるのは、ささやかな日常のドラマのように思う。ささやかな愛やかなしみの、胸があたたかくなったり、胸がきゅっと締めつけられたりするリアリティーが、氏の小説の大きな魅力なのだ。
 逆説的に言うとこのエッセイ集は、小説的な趣に満ちている。旧式のスライド映写機が、白いペンキを塗っただけの殺風景な壁に、クフ王のピラミッドをぼんやり映す瞬間や、四桁の数字がパタパタ動くイタリア製の重い鉄の目覚まし時計の、十九時五十九分から二十時になる瞬間(!)の、なんと小説的なことか。骨董屋で、ある陶器に出会った作者は、ベージュ地に黒と茶がしっくり溶け込み、時とともに生じた貫乳もどきの傷がなかなかいい味を出しているのを見て思う。ありきたりのものを美しくするのは「時間」だと。そう、堀江氏の作品に人は「時間」を読んでいるのだ。
 


その気持ちにひかれて       おすすめ度
陶製のペンギン、穴のあいたトランク、大小の木樽、ボル、ベークライトの小皿・・・。偶然に手に入れた愛すべき古きものたち。その「もの」がまとうのは、手触りや音、匂い、そしてかつてそれを手にしていた主の記憶である。殊更に骨董を買い求める、というわけではなく、ふらりふらりとさまよい歩くなかで、気持ちをひかれたものを手に入れる。このスタンスが「もの」の持つ記憶と筆者との間に、微妙な距離感、緊張感を生み出している。どこかしらいびつで、角のとれた、やわらかさ。古いものが生み出すあたたかさは、それがたくさんの人の手に触れてきたことを物語る。そしてその「もの」が愛らしいのは、それを持ち主から譲り受けたときの、ささいな言葉のやりとりがあるからなのだ。ものにひかれるのは、それを生み出し、かつてそばにおいたひとの気持ちにひかれる、ということなのかもしれない。