東京ダモイ
作者 鏑木 蓮
価格 1,680 円
出版社名 講談社
出版年月 2006/08/10
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    第52回 江戸川乱歩賞   受賞
終戦直後、シベリア捕虜収容所で起きた日本人将校斬首事件と現代日本でのロシア人女性殺人。2つの事件の真実とは。風化する歴史の記憶を照射し、日本人の魂を揺さぶる感動作。

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■読者の評価     おすすめ度平均

謎解きは浅かったけど       おすすめ度
話自体は骨太なものですね。
忘れられていく戦争、抑留者の体験をミステリーに織り込み、語り継ぐ手法はなかなかのものです。俳句を暗号のように使っているのも作者の知恵を感じました。
ただどんでん返しがなく、どうしてミステリーとしてはくいたらなさが残るかもしれません。


「乱歩賞」の制限枚数撤廃を!       おすすめ度
本年度「第52回江戸川乱歩賞」受賞作。

私は、現行の乱歩賞受賞のポイントは2つあると思っている。
ひとつは、過去に扱われたことのない新しいテーマをメインモチーフとすること。
もうひとつは、昨今の大作全盛の時代に、原稿用紙350枚〜550枚という制限枚数の内でいかに事件を起こし、物語を展開させ、盛り上げ、まとめるか、である。

その点、本書はこの難しい両方のポイントを上手にクリアーした、いかにも乱歩賞らしい作品に仕上がっている。

テーマは、過去の、シベリアの捕虜収容所と、現代の、俳句集の自費出版を扱っている。殺人事件もシベリア収容所当時の昭和22年と、現代(平成17年)に起こっている。

また、過酷な強制抑留生活の生々しいありさまと、過去と現代の殺人事件を解明する鍵を、シベリア当時二等兵だった高津老人が、自費出版を希望する“手記を伴った俳句集”の中で述べる、という形にうまくまとめ、制限枚数の内で消化している。

ただ乱歩賞を意識するあまり、ストーリーの深刻さとか広がりを犠牲にしている感は否めない。高津老人の俳句が殺人事件を解明するヒントになっているというところも地味で、かつ難解である。

加えて、主人公が、自費出版の会社の若い編集者とやり手の女性上司なのか、現代の事件を捜査する刑事(たち)なのか、あいまいである。どちらかをはっきり中心に据えた方が良かったと思う。

枚数制限さえなければ、本来作者は、もっとセンセーショナルな事件を取り上げたり、もっと捕虜収容所の悲惨な抑留生活について述べたりしたかったのではないかと思う。


シベリア抑留       おすすめ度
まず、なかなか上手くまとまっている作品だな、というのが第一。シベリア抑留、というのをメインテーマに、俳句、自費出版なんていうものの世界を交えて物語を展開。いろいろなものの裏舞台を描く、というのは90年代以降の江戸川乱歩賞作品でよく見られる傾向であるが、それを踏まえつつも、キッチリとまとまっている辺りは好印象。
特に、作中に登場するシベリアでの過酷な状況というものの描写が秀逸。横暴なソ連軍。粗末に扱われる日本兵たち。思想教育に、スパイの疑惑……作中に描かれる様子は実に生々しい。第2次大戦をテーマとした作品も、乱歩賞作品には多いのであるが、これだけ生々しさが表現された作品というのは始めてではないだろうか?
と、ここまで褒めてきたのだが、その謎解きのような部分になると失速した、という印象。まず、58年前のトリックが、プロローグを読んだ時点で「これだったら、嫌だな」と思ったものがずばり来て苦笑。そして、終盤の謎解きが、手記の中にある俳句を読んで物証とか無しに「こうじゃないか?」と推理していき、その通りでした、となるだけなのはちょっと辛い。ここがもう少し良ければ…と思う。
でも、十分に乱歩賞受賞作としての水準はクリアしているのではないだろうか?


ちょっとがっかり       おすすめ度
結論から言うと、従来の江戸川乱歩賞受賞作と比べ、どうもいまいちで、がっかりしてしまった。舞鶴で起きた殺人事件を辿っていくと、約60年前に発生したシベリアの捕虜収容所における殺人事件に端を発しているらしいということが分かるものの、両方の殺人事件の謎を握っていると思われるキーパーソンが、自費出版しようとした俳句集の原稿を残して失踪してしまうというストーリー。ソ連と日本の両国で起きた殺人事件を、時代を超えて結びつけて描くという点ではスケールの大きな構成なのだが、壮大さとリアリズムでは山崎豊子の「不毛地帯」にだいぶ劣るし、謎解きも中途半端。犯人に至る伏線の入れ方が不自然なので、勘が良ければその時点で気付いてしまう。ただ、主要な登場人物それぞれが芯の通った人生を送っており、その描写がなかなか秀逸な点で救われている。


現代と戦争をつなぐもの       おすすめ度
感動した。何よりもまず、テーマがしっかりしている。
推理小説として、たとえば江戸川乱歩の世界を期待して読んでしまうと、「なんだ、つまらない」と読む人もいるだろう。当然である。この小説は、人間ドラマを描いているからだ。

そこに、謎解きの要素が入ってくる。俳句の解釈と、殺人との関係、自費出版のことなど、細かいプロットに目がいってしまうと、派手な殺人事件がない、エンタテインメント性に欠けるところも、確かにある。
しかし、戦争について、実にわかりやすい文章で描きながら、現代に生きる私たちに、祖国とは、愛とは、家族とは、そして日本で現代を生きるとは何かを伝えようとしているテーマ性は、大いに評価できる。

小ぶりの作家、小手先の、軽いエンタテインメント性だけでないようのない小説が多い中、ひさしぶりに重量感のある作家が誕生したといえるだろう。

自作は。あまり急がなくてもいいので、本書のような、きっちりとしたテーマのある作品を期待したい。