透明人間の納屋 (ミステリーランド)
作者 島田 荘司
価格 2,100 円
出版社名 講談社
出版年月 2003/07/30
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■読者の評価     おすすめ度平均

退屈せずに読み通せました。       おすすめ度
幼年期のせつなさややるせなさを感じさせるような、センチメンタルな読後感でした。
話の謎解き的な要素や背景的な面も含めて、興味深く面白く読み通せました。


主人公が寝ていて襲われた場面について賛否があると思うのですが、私はあの事象に関する説明は、物語の一要素としてはご都合主義だとも思いますが、出来事としてはまったく不思議とは思いませんでした。なぜなら、私自身が同様の体験を何度もしているからです。ああいうときって、本来どうってことないものでもそう感じられるんですよ。もちろん、半覚醒状態だからありうることで、覚醒してみると、なーんだって毎度思うんですけどね。私もああいう状況で、部屋のカーテン、衣服等々に恐怖したことが何度もありますもので・・・。


成長の意味。       おすすめ度
この作品は子供が読めるように書かれている、と同時に子供に分からないようにも書かれている。おそらく、子供だった読者が大人になって再読することを期待しているのだろう。

それはタイトルにも表れている。この小説には英文のタイトルも付いているのである。
『The Invisible Man's Virus』、直訳すると「透明人間のウイルス」

冒頭には宇宙から飛来するウイルスという話があるので、子供のように素直に読めば「ああウイルスというのは、このことなのだろう」と思うが、実はVirusという語には「道徳、精神上の害毒」という別の意味もある。
無論、小説の最後には「透明人間というのはこういう意味なのですよ」という一応の説明はなされるわけで、透明人間の正体には子供でも否応なく気づく。これは、言い換えてしまえば、教えられてしまっていることに他ならない。
しかし、この英文タイトルの掛詞「Virus」は自分から考えなければ、まず発見できない。「ウイルスとは何か?」という問いかけは本文中にないのである。これは、英文タイトルの意味を知っていて(知ろうとして)初めて問われることなのである。

人間というものは、年齢が20才に達すると自動的に子供から大人に成るわけではなく、知ること、知ろうとすることで人は成長する。子供の頃、分からなかったことは、大人になった今になれば、当たり前のように分かる。しかし、透明人間という未知のものを生々しく感じることは、だんだん難しくなっていくのだろう。成長は嬉しいことである反面、悲しいことでもある。それは主人公の少年ヨウイチが大人になって、過去を振り返る時に感じることに似ているような気がする。

子供のころ、自分が読んだ本が手元にあれば、これを期に再読してみるのもいいかも知れない。
ミステリとしては若干楽しめない部分もあったけれど、十分に意味のある良書だと、個人的には思う。あと装丁・装画もしっかりしていて、本として良い。


流石島田さん       おすすめ度
子ども向けだからこそ書かれた内容と、子ども向けだからと手を抜かない謎解きがしっかり両立している。さすが島田荘司。
人間消失の謎をきちんと解明しており、透明人間の秘密も納得できるもの。
ただ、主人公の少年が襲われた部分の真実がいまひとつだったけれど、それでも悪くない作品だった。


私には合わないタイプの作家       おすすめ度
〜透明人間をテーマにしたジュブナイル・ミステリー。

今度こそ“当たり”かな、と思って、毎回裏切られているのが私の島荘感です。
『占星術殺人事件』のインパクトが強すぎたのでしょうか…。

ミステリーとしてはイマイチでしたが、
ジュブナイルとしてはなかなかよく出来ているとは思います。
たぶんに説教臭いというか、
作者のノンフィクション〜〜作品のテーマがしみ出しているのが、
アクが強いと感じるかどうか、は微妙なところですが…。〜



確かな存在感と力       おすすめ度
奇怪な状況がきちんと論理的に説明されるのはいつもながらお見事。人間消失については正直いまひとつでしたけれども。
だけどミステリだけの意味合いでなく「人が消える」ことがきちんと描かれているのは凄さです。ずしんと上手い。
「今」「子供向け」だから多分島田さんはあえて書いたのだろうなぁと思います。たとえよくわからなくても、女の幽霊の不気味さや、消えた隣人や、作りかけのプラモデルや、透明人間の話にあるある種の哀切さを、きっと子どもは覚えている。地球は狭く、悲劇は本当にすぐそこにある。消えたのは自分の町の、自分の友達なのです。テレビで見る誰かではない。透明人間はそこにいる。誰にも気付いてもらえず、冷たい海の中に白い塊になって浮かんで終わる。それはお話ではない。いつかきっと気付く。そしてできれば、自分でその闇を解き明かして欲しいと島田さんは思っている。
まあ、この人のこの説教くさいところはあまり好きでもないですが。それとは別に、独特の郷愁やちょっとどきどきする展開は良かったです。読んで損はない、力のある作品だと思います。