輝く日の宮 (講談社文庫)
作者 丸谷 才一
価格 770 円
出版社名 講談社
出版年月 2006/06/15
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■読者の評価     おすすめ度平均

“文学的なるもの”の意味を考えさせられる問題作       おすすめ度
 主人公の女性国文学者が、シンポジウムで論敵に挑発され、「『源氏物語』には「輝く日の宮」という章が存在していた」という自説を“小説形式”で書くことになる。この著作自体が、主人公の日常生活や恋愛を描く普通の小説の側面を持つ一方、“「輝く日の宮」の存在を実証する小説形式の読み物”でもあるというメタ構造になっている。著作の最後で「輝く日の宮」そのものまで再現してしまうという念の入れ様だ。作者の古典に対する教養、知見が存分に発揮されており、知的エンターテインメントとして一級の作品に仕上がっている。また、藤原道長と紫式部、光源氏と紫の上、主人公と恋仲の男性、という三組の恋愛模様がパラレルに描かれており、洒落た恋愛読本としても楽しむことが出来る。筒井康隆「文学部唯野教授」を思わせる学会、論壇諷刺があったり、衣装描写に関して斎藤美奈子「文学的商品学」の丸谷評に対する返答と思われる記述が見られたり、作者のテクスト論や小説論に対する考え方が散見出来たりと、読み物としてのサービスも満点である。
 但し現代の文学が担っている、時代的な問題に対峙する要素はこの作品には無い。あるいは意図的に避けている。それは、1990年代の社会事象と主人公周辺の出来事を年譜形式で機械的に並べたり、主人公が知らないうちに社会的事件とニアミスしていたり、という時代と個人の描き方に顕著である。作中、「文学」に対抗する概念として芭蕉が口にした「風雅」について触れているが、作者は意図的に「文学」的なるものを回避し「風雅」的なるものを標榜している節が見られるのだ。こうした作者のスタンスと作品価値をどう評価するかは大きく意見の分かれるところだろう。


源氏物語の真実       おすすめ度
2003年泉鏡花賞受賞作。

『源氏物語』には「桐壺」と「帚木」の間に、「輝く日の宮」という巻
が失われているという学説があります。『源氏物語』は長編小説とし
て、そのあとの巻との整合性が欠けているのです。この巻には光源氏と
紫の上のとの一度目の情事、朝顔の姫の登場、六条御息所との関係のは
じまりが書かれているとされています。

そのようなことがどうして起きたのか、ということを女性研究者が解い
ていく小説。文学的な謎を、史学的にも考察し、さらには平安時代への
想像力を働かせます。

この女性研究者は19世紀日本文学が専門なのですが、『古今集』巻
19の伊勢の歌の「つくるなり」の文法上の正しさから本意を指摘した
り、芭蕉の東北への旅の目的を明らかにしたり、「日本の幽霊」のシン
ポジウムに出席したり。専門外での活躍とその学術研究結果が優秀とい
う、ユニークさ。

ところが自分の領域を冒された研究者にしてみれば、おもしろくない。
公開シンポジウムでほかの研究者とやりあう様は読ませます。人のゴタ
ゴタがおもしろいのと一緒ですね。

また彼女の父親が日本生活史研究者であり、彼からの学会での姿勢や、
研究の方法論などの指南があり、研究者としての丸谷才一を感じます。

さらに彼女が中学生の頃に書いた新左翼との恋愛小説や、実際の恋愛を
絡めながら、源氏の謎を解いていきます。小説としての楽しさは円熟の
筆で読ませるのはあたりまえ。研究の楽しさ、奥深さも堪能できます。
すっかり「輝く日の宮」存在説支持派になりました。



長編第六作、失われた源氏物語を求めて       おすすめ度
 この小説の中では、幽霊シンポジウムを企てる場面が中心になる。作者は杉安佐子に次のように反論させている。「でも、当面の〈輝く日の宮〉はあったかどうかといふ問題との関係となりますと、何だか違ふ気がします。…とかく光源氏と藤壺との最初の共寝のことだけに目がゆきがちになりますけれど、第一夜のことが欠けてる理由が只今の御説明で納得が行くとしましても…」と幅広い知的観点から古典の世界に興味深く招待してくれる(雅)


心躍る物語       おすすめ度
わくわくしながら、読み進めました。
国文学の研究家である主人公が、「源氏物語」についての考察を進めていく思考過程をとても面白く思いました。文献だけに頼らず、紫式部の性格、物語が書かれた時代の息吹にまで思いを馳せながら、源氏物語の謎を解いていく主人公の思考過程を読み進めていくのは、まさに心躍る瞬間でした。一章ごとに考察が進み、最終章の「源氏物語」の謎解きともいえる会話は、まさに「裏版源氏物語」。「思考のレッスン」「恋と女の日本文学」をお書きになった著者の、知と思考、人間観の集大成だと思いました。再読の価値ある本です。


源氏物語を軸にした知的冒険       おすすめ度
メインテーマは源氏物語の幻の一章ですが、ほかに奥の細道もあり、宮本武蔵もあり、日本文学(史)に興味のある人にとっては楽しみの多い一冊です(逆に、文学の成立裏話やトリビアに興味のない人だと読み飛ばしてばかりであまり楽しめないかも)。
私自身は前に中央公論社からでた、大野晋との対談「光る源氏の物語」を読んでおなじみの説が素材だったこともあり、わりとぐいぐい読み進められました。氏の軽妙な語り口にして博覧強記なエッセイがそのまま長編小説に引き延ばされた感じで、ファンなら夜更かし覚悟です。小説の構成上、いろいろな仕掛けがあって、途中から読み返したくて落ち着かなくなります。
ここで源氏物語に興味が出たら、上記「光る源氏の物語」(文庫もあり)がおすすめです。