旅をする裸の眼 (講談社文庫)
作者 多和田 葉子
価格 620 円
出版社名 講談社
出版年月 2008/01/16
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■読者の評価     おすすめ度平均

純粋な小説       おすすめ度
なんのあてもなくパリに放り出されたわたしは、行き当たりばったりに知りあった人の家で居候生活を始めた。 身分を証明するものを持たない、それも共産圏からの密入国者であるわたしに何ができるだろう。
ふらふらと吸い込まれるように映画館に入ったわたしは、ひとりの女優に惹かれて、彼女を見るために、彼女に話しかけるために、映画館に通い詰めるようになった。

社会主義しかしらないベトナム人の少女は、フランス語がわからないからパンフレットも読むことができない。 作品を何度も何度も繰りかえし観て、オリジナルな解釈をつけてゆきます。 
少女が惹きつけられた女優はカトリーヌ・ドヌーブ。

小説には少女が見ている作品のタイトルが書かれていません。
実は・・・わたしはカトリーヌ・ドヌーブの映画をたくさんは見ていないので、少女がどの作品を観ているのか、私たちが知っているストーリーとどれだけかけ離れた解釈なのか、いまひとつわからないまま読んでいましたが、なかなか興味深かった。
12年間に及ぶ、パリでの実生活も ものすごく怪しげで、目が離せない。
こんなに長くパリに住んでいたのに彼女はフランス語をマスターできなかったのです。

この本は、読んだことによって自分に何かが蓄積される、そういうことはまったくない小説でした。 ある意味では純粋な小説とも言えます。
読んでいる時間、小説に没頭してるときがすべて。
芸術性の高い作品だと思いました。


映像と意味       おすすめ度
日本で海外の映画を見慣れていると字幕が当然になってしまいますが、映像のなかの文字に注意を集中させられるというのは、かなりもったいないことです。ということが、この小説でよくわかります。

ベトナムの女子高生がヨーロッパ(特にパリ)をさまよい、孤独のなかで成長していく話。ストーリーもおもしろいですが、フランス語がまったくわからない主人公の独特の映画解釈がたまりません。セリフの意味が分からないから、画面からかなり勝手に意味を作り上げていく。いくとおりも考えられる映画の意味の世界の豊かさが、孤独な現実と重なっていく手法が見事です。

言葉=たった一つの意味。映画=いくつもの意味。この小説を読むと、字幕をみるのはやめようと思えるはずです。