蟹工船・党生活者 (新潮文庫)
作者 小林 多喜二
価格 420 円
出版社名 新潮社
出版年月 1954/06
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■読者の評価     おすすめ度平均

真理は圧倒的な力をもっている       おすすめ度
蟹工船という単品作品が一年以上もブームになっていることは、この作品の圧倒的な力を物語っている。この作品の力とは「真理」である。
働く者たちが報われることがなく、それを食い物にしていることを国家が推し進め、ついには国家が収奪者のためだけに軍隊という最大の暴力組織を動員することもためらわないという現実である。
そのことは今日にいたっても変わるどころか「資本主義の里帰り」と揶揄されるような形で継続、発展されている。

現在の派遣労働、いわゆるピンハネを合法化した労働者派遣法の改悪が今日の貧困をつくりだしてきたとことが、この作品を蘇らしている。
一説を紹介したい(以下、原文より抜粋)

青森辺の善良な村長さんに選ばれてきた「何も知らない」「木の根っこのように」正直な百姓もその中に交じっている。ーーそしてこういうてんでんばらばらのもの等を集めることが、雇うものにとって、この上なく都合のいいことだった

(以上、終わり)

是非、手にとって頂きたい。現在社会と驚くほど変わらない現実に気づかせてくれる作品です。

小林多喜二の蟹工船は真理であるがゆえに圧倒的な力を持っているのです。


読んで損は無い       おすすめ度
蟹工船と党生活者の2本立てです。

蟹工船は劣悪な環境下で自然発生的にストライキが起こる様を描いた小説(実話?)です。
決まった主人公がいないため、話が散漫となるところもありましたが、
人間の感情のうねりを感じ取ることが出来ました。

現在の「日雇い労働者」や「派遣労働者」と照らし合わせてマスコミが
騒いでいたので手にとってみましたが、蟹工船ほどではないな、と思いました。

本では、労働者は人間らしい扱いが全く無く、まさに資産階級の奴隷のような存在。

しかし、現在はまがりなりにも肉体的・精神的な自由はあり、
そこまでの劣悪な条件下ではない、自由を享受している上での甘えなのでは?と。
這い上がることが出来る時代なのに、それだけの努力をしようとしない、
現代人の甘えを戒める、そんな読後の感想を持ちました。

党生活者はしっかりとした主人公「私」がいます。
共産党の支持者であった著者、小林多喜二の実体験を基に描かれているのでしょう。
当時の思想のあり方を垣間見ることが出来ます。

母とのやり取りや同士一人一人の性格の違いなど、
人間の心の機微を描いている秀作と感じました。

今、労働組合の形骸化・労使協調などが日本の会社に見られますが、
そんなことを微塵にも感じさせない、ブルジョワジーvsプロレタリアートを
まざまざと見せ付けられる一冊、読んで損は無いと思います。




まあ復活は喜ばしい、かな?       おすすめ度
 しばらく何で本書が書店に平積みにされているのか不思議で仕方がなかったが、最近になって理由は了解した。なるほどね。読まれないよりはずっといいし、評価が高いのも何よりだ。でも「面白い」と言われてしまうと、いぢわるおばさんとしては「ちょっと違うだろ」と言いたい。

 以下はまったく個人的なこと。私の祖父は戦争中、海軍の軍人だった。退役していたのに再び駆り出され、駆逐艦「あさかぜ」とやらに乗っていたそうだ。「そうだ」というのは私が3歳のときに亡くなったので本人から話を聞くことができず、なぜか母を初めとする子どもたちが詳しい話を知らないからだ。惜しかったなーと思う。物心つくまで生きててくれたら実体験が聞けたのにね、おじいちゃん。

 と書きながら、また脈絡なく思い出した。「物心ね、そいつがつくのは一体いくつぐらいかね?」というセリフが竹宮恵子氏の「エデン2185」にあった。うん、それは問題だな。


プロレタリア文学って枠組みが邪魔だよ       おすすめ度
描写力がものすごい!
北の港の情景が映像として浮かび上がってくるような冒頭のシーンは圧巻だった。
プロレタリア文学っていう枠組みが本当に邪魔だし、作者自身は気づいてないのかもしれないけど、この小説にミソが付いているとしたら取ってつけたような共産党讃美の部分だと思う。
自分は共産党がどうのというつもりはないんだけど、あまりにも取ってつけたようでこの著者の書きたいという欲望とちょいと乖離がみられる。
もし、もっと悲劇的な運動の挫折を描けていたら、恐ろしいほど美しくて残酷な小説が出来上がったんじゃないだろうか。
この著者の研ぎ澄まされた感性をこんなお得な値段で感じられるんだから、食わず嫌いの方はぜひ買って読んでいただきたいものだ。
まあ、読んでも明るい気分にはならないけど。

それから、併載の「党生活者」も歪んだ恋愛小説としてよく描けていると思う。
やっていることはよくある「女に貢がせて『金がないなら風俗に行って稼げ』って言ってさあ」的な男と女の救われない話なんだけれども、自分を愛する人を愛することができない、という男を愛しているかのような勘違いをして依存していく女、っていう救われなさのばかばかしさを自覚しているのに抜け出せない男(これ、リアルに作者のことなんだろうな)をこれでもかって言うぐらいに描ききっている。
まあ、こっちの場合、共産党の工作員っていう設定は小説の構成として良い方向に働いている。
これを読むと、本人が意識していたかは別として小林多喜二は相当に党生活者としての生活にくたびれ果てていたんだろうなあ、という気がした。

こんだけ救われない人間だからこそ、これだけの表現力を身につけられたのかも知れない、と思うとなんだか哀しくなった。


「蟹工船」と「現在」のズレ       おすすめ度
 学生のときにこの「プロレタリア文学の金字塔」を読んだが、最近、本屋に平積みになっているのを見て読み直すことにした。
 当時は一応「プロレタリア文学の代表作」ぐらいは読んでおこうとして読み、その歴史的意義は理解したが、正直、そのリアルな描写に感心するというよりは、拒絶感を感じた記憶がある。「現在と噛み合う話ではない」と思えた。

 読み直してみた現在の感想は、やはり、しんどいと感じた。
 しかし、この本が現在、若い人などの共感を得ていて、相当数の発行部数を上げているらしい。
 派遣などの非正規雇用の悲惨な実態はある程度、知っているつもりだったが、この「蟹工船」に共感するとなれば、彼らの置かれている状況はかなり深刻だと思える。
 「蟹工船」と「現在の社会状況」と「私の認識」、下手すれば、「現在」とズレているのは「蟹工船」では無く、「私の認識」ということになる。
 この本が売れているという事実をもう少し真剣に考える必要がある。