生(いきる)―命四部作〈第3幕〉 (新潮文庫)
作者 柳 美里
価格 580 円
出版社名 新潮社
出版年月 2004/01
Amazonの詳細ページへ

  この著者の他の作品を検索する

著者名をクリックすると、この著者の他の作品を検索することが出来ます。

書名か表紙写真をクリックすると、 Amazon.co.jp の詳細ページに移動できます。

商品を購入する際は、移動先の Amazon.co.jp の購入ページにて、商品価格・在庫の有無や納期をよくご確認のうえ、お手続き下さい。



■商品案内

???妻ある男性の子どもの妊娠・出産と、師として、父親として、そして恋人としての関係を15年間続けてきた劇作家の東由多加の闘病生活の介護の日々を、2つの命の交錯として描き、センセーションを呼び起こした『命』、『魂』に続く「命三部作」完結編である。

???国立がんセンター中央病院を出て、昭和大学付属豊洲病院へ転院する東。3人の女性たちの手厚い介護の中、わずかな可能性にかけた抗ガン剤治療は死を前提とした延命治療へとシフトしていく。生後2か月の丈陽を友人の町田康夫妻に託し、東の個室に寝泊まりし、介護の合間に原稿を書き、治療費の工面をする「わたし」。ここで語られるのは日常の中の戦争だ。「わたし」の肉体と精神は極限まで追いつめられ、さらに追い討ちをかけるように強姦未遂事件に巻き込まれる。一時帰宅の後、再び入院する東に残された時間はわずか。周囲の祈りも空しく、ついに彼はこの世を去る。

???2000年3月26日から4月20日までの26日間が、作者の驚異的ともいえる記憶によってたどり直される。ここにあるのは、ありきたりの感動に収束しない強い意志の物語である。東の死後、作者は自死を考える。断ち切りがたい死への欲動を振り払い生の世界に生還した者だけが書きうる物語、その稀有な物語が「命三部作」だ。「生(いきる)」 という作品タイトルに込められた意味をかみしめつつ読み進めたい作品である。(榎本正樹)



■読者の評価     おすすめ度平均

すごいか、すごくないかって言えば、すごい...でも       おすすめ度
生―命四部作〈第3幕〉です。

どんどん成長していく息子と、どんどん死に向かってゆく東由多加。育児と看病でぼろぼろになり、不眠と疲れと心労で壊れていく彼女。決して読んですっきりしたり、楽しい気持ちになったりするわけではないのだが、手に取ると、読むのをやめられない。

だが、読み終わって冷静になってみると、(どこまでが現実でどこからが虚構であるかはわからないが、)作者の行動に反感を持ってしまう。もともと、東氏のもとを飛び出したのは彼女である。妊娠して、捨てられたのはかわいそうだが、妻のいる男性との恋愛であった以上、彼女か妻が捨てられることは確実であり、どういった結末になっても決して後味のよい恋愛ではなかっただろう。そして、仮定でしかないが、もし、彼女が子どもの父親に選ばれ、三人での家庭を築いている時に、東氏の闘病を知ったら彼女はどうしたのだろうか?どうも、「ないものねだり」というか、「手に入らないものが欲しい」人のように思える。

東氏の余命がいくばくもないことを宣告され、生後二ヶ月の息子を(いくら、誰よりも信頼しているとはいえ、)育児経験のない夫妻に預けてしまったり、そして忙しいとわかっていながら、息子を連れてきてもらったり、深夜に電話したり。私もよく思う。「他人の子はかわいい」。世話をしなくてよい、乳児はひときわかわいいのだ。他人に預けた息子はさぞかしかわいいだろう。そして、最愛の息子を預けてまで看病するはずの東氏の病室で、彼女は疲れのあまり、眠り込んだり、寝たふりをしたり。そして、病室を離れると、彼女は携帯の電源を切ってしまうのだ。疲れすぎていたのかもしれない。いろんなことがあったから。でも...と思わずにいられないのはなぜだろう。育児をしたとはいえ、彼女のいうように「普通の幸せな家庭」の主婦は、彼女の辛さを理解できないかもしれない。でも、どこの家にだって、それなりに事情はあるのだ。辛いのは、あんただけ?それは、自分のせいじゃないの?と思ってしまう私は、幸せなんだろう。たぶん。

そして、表紙の写真。彼女がどれだけ息子を愛していると言っていても、自分と息子とその父のことをこんな風に書いて、その上に写真を貼り付けて。成長した息子や、その父がこれを読んでどう思うか、周囲の人にどう思われるか、そして、どれだけ傷つくか...なんて考えちゃいないんでしょうね。それだけでも、柳氏は好きになれません。でも、まだ読むんだろうなぁ。


現実と過去       おすすめ度
後半更に現実と過去が、回想と闘病が、入り混じっていく。

原作を元にした映画はあまり注目されなかったが、この著者と東由多加氏が主演した映画を作れば大ヒット間違いなしだったろうに。どこまでが事実でどこまでが虚構か分からない、柳美里の戯曲を読んでいる気にさせられる。子供の誕生も、子の父親との別れも霞んでしまうほど濃く粘質に惹かれあった二人の関係。少し羨ましくなった。



生存者(サバイバー)の叫び       おすすめ度
これほど過酷な体験が、何故彼女ばかりを襲うのだろう。
強姦未遂事件の後、耐え切れなくなった美里さんが「ナゼワタシバカリガコンナメニ」とシュプレヒコールのように叫び続ける場面で、読み進める私の精神も限界を超えてしまった。

彼女の「生(いきる)」という言葉は、私たちが使う安直な意味とは全く違う、壮絶な業のようなものである。私たちが彼女のような体験をしたら、死を選ぶことの方が自然で健やかなことだと感じるだろう。
そんな壮絶な体験を克明に記す、美里さんの物語を読むことで、私たちも血みどろの命の営みの一部を体感できる。

しかし、彼女の精神はいつまで書くことが出来るのだろう?
それとも書くことで、生きていることが出来るのだろうか。
彼女にとっての宿命の人だった東さんが亡くなった今、丈春くんが臍の緒のように美里さんを現世につながり留めることを願う。



三部作の終幕?       おすすめ度
『命』『魂』に続く三作目。 柳美里の精神も肉体も、追い詰められ そして、研ぎ澄まされてゆく。 もはや、周囲からみれば、回復は絶望的な東氏を、 全身全霊で看護する3人の女性たちの姿は、 守護神のような厳しさと美しさを放っている。

愛でなく、思いやりでなく、同情でなく。 彼女たちを支えたのはなんだったか。

そして、最期に「選ばれなかった」という筆者の言葉に これ以上辛い文章は久しく読んでいないと思った。

彼女たちの想いと、東氏の意思と、 周囲の人々の優しさと、丈陽くんの強さ。 同情でなく 胸を突き動かされての涙が止まらない。