神の火〈上〉 (新潮文庫)
作者 高村 薫
価格 620 円
出版社名 新潮社
出版年月 1995/03
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■読者の評価     おすすめ度平均

面白くない       おすすめ度
高村さんの小説はエンターテイメントなストーリーのはずなのに文章、文体、内容は極度に難解。最後まで読んでも全く面白くない。いくら資料を集めても小説として面白くなければどうしようもない。高村さんはテレビ出演していたときも話がかなり抽象的で主張がわかりにくかった。だから元からそういう人なんだと思った。文でも話でも相手に伝わらなければ意味がない。高村さんの本がたくさん出てるのを見ると、需要があるんだろうなと思う。


上巻読了時の感想       おすすめ度
冷戦時代の終末期、<北>を含む国際的諜報戦が渦巻く中、自ら東のスパイとなった原子力研究者を主人公として、明日をも知れぬ孤独な日々を生きる人間達の運命を綴ったサスペンス小説。

原子力発電所の設備や制御システムに関する精緻な描写には、いつもの事とは言え驚かされる。また、作者の生まれ故郷とは言え、大阪の雑然とした街の描写の臨場感には圧倒される。反面、<北>、ソビエト、アメリカの描き方は類型的か。また、人間ドラマとしては物足りない面があり、主人公に深い影響を及ぼす江口との関係が不鮮明。更に、何故主人公がスパイとなる道を選んだのかが不明な点に不満が残る。こうした漠とした人間関係の中で、"良"の純真さと薄倖が胸を打つ。

それにしても、体制の崩壊の兆し、国家間の政治バランスの変化が個の人間を翻弄する様を重厚な筆致で描く手腕は見事という他はない。それも、"個"を描く事によって、国家の思惑を映し出すのだから、卓越した技量である。

上巻だけでも読み応えがあったが、作者がどんな結末を用意しているか下巻への期待が膨らむ。


一番好きな高村薫作品       おすすめ度
高村薫の最高傑作は「レディ・ジョーカー」だと思っていますが、一番好きなのは、この作品「神の火」です。
サスペンス、科学系犯罪小説のストーリーですが、人間の心のゆれ、不安と希望と絶望と愛とでもいったようなものが漂っている作品です。


消化不良の感あり。”頭で考えて”書いた小説という印象で地に足がついていない印象。       おすすめ度
原子力工学の技術者であり、旧ソ連のスパイである主人公とそれを取り巻く人をめぐる小説。けれど、ハードボイルドでもなく、ミステリーでもなく、スパイ小説というのでも無く、主眼はおそらく主人公の生き様の描写なんだと思う。

小説の通奏低音として、”原子力”に対する著者の強い思い入れがあるように感じられるのだが、これについての説明・描写は小説中にはあまり無い。思い入れがそこにあるのは感じるし、小説を理解するうえでは重要なんだろうけど、何で重要なのかわからない、という痛痒感が強い。また舞台背景につかわれる国際政治も、話が大げさになるだけで小説の中でうまく噛み合っていかない。これが地に足がついていない印象を与えされる原因だと思う。

私は小説にリアリティは必ずしもいらないと思う。「こんなこと、本当は絶対に無い。」ということでも、小説の世界の中で説得力・必然性があればそれでいい。が、この小説にはそうした実在感や、読者が共感できる要素が欠けている。著者の登場人物に対する思い入れが感じられず、心ではなく頭で書いた小説と感じてしまうからだ。

合田刑事シリーズにおける中身を伴った緻密な描写を高く評価するだけに、本作はとても残念。


日本を舞台にした元スパイの物語       おすすめ度
優秀な原子力技術者にして東側のスパイだった過去を持つ男、島田。
ジョン・ル・カレのスパイ小説でもなく船戸与一のエキゾティックな冒険小説でもない・・。日本、あまりにも日本的、泥臭い関西を舞台にした元スパイたちを描いた小説。
高村薫がよく描く暗い情念、虚無を抱えた男たち・・・。本作の主人公たちも例外ではない。
幼い頃から島田に薫陶を施し後にスパイとして導いた老紳士江口、島田の幼馴染の日野、その妻は過去に北朝鮮のスパイとして洗脳され、いまは精神を病む。アメリカ、ロシアの情報員・・。厭世的なのも共通。
圧巻は下巻後半を占める原発襲撃の計画から実行までの展開。ひたすら緻密な描写は、圧倒される。
印象的なのは、逃避行に携える数冊の書物として何がよいかと、江口と議論するシーン。自分の運命が長くはない、かなうことがない夢だという思いを抱きながら、楽観的な将来の話に興じるふたりのシーン。
あまりにも孤高の人物造形に、主人公たちへの感情移入は難しいとも言えるが、主人公が口にする食事までみっちりと描かれる濃密な描写の元での、緊張感に満ちた世界は息苦しさを通り越して独特の快感がある。
それだけに虚無的、破滅的な彼らが見てきた風景、最期に見ていた心象風景はどのようなものだったのだろうと思わずにはいられなかった。