図書準備室
作者 田中 慎弥
価格 1,470 円
出版社名 新潮社
出版年月 2007/01/30
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    第37回 新潮新人賞  受賞
私は30を過ぎた。一度も働いたことがない。あの「目」を見てしまったから…。第136回芥川賞候補となった表題作ほか、新潮新人賞受賞作「冷たい水の羊」を収録。圧倒的な筆力で現代を照らし出す新鋭の誕生。

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■読者の評価     おすすめ度平均

内容については論評できないけど、文体について       おすすめ度
少し書いておきます。
エンタメ系の本ばかり読んでいましたので、非常に読みづらいです。
速読が私のスタイルなんですが、この人の文章は斜め読みができません。
ですから内容については、ほとんどわかりませんでした。
じっくりと読むことを強制する文体です。
本にじっくり向き合いたい人にはお勧めかもしれません。
比喩とかは下手ですね。
それと冷たい水の中の方なんですが、新人賞に合格したというわりには、視点が一定してません。なぜ合格できたのか不思議な気がします。


おもしろかったです。       おすすめ度
いろんなところで「いいわけ小説」「いいわけ小説」と言われている、表題作「図書準備室」。

あたしには、「いいわけ」でなく、作者の強烈な言いたいことが本気で書いてあるように思えました。
「なんで働かないの?」という伯母の質問を必死に思考した結果の作品だと思いました。
作者のプロフィールを見てみれば、高校卒業後、一度も働いたことがないとのこと。
きっと「なんで働かないの?」という問いを腐るほどされ、それについて、考え抜き、この小説を書いたんだとあたしは思いました。

なので、「なんで働かないの?」と言われ、辟易している方や
働かない人の周辺で「なんであいつは働かないんだ」とむかむかしている人にとって大変意味ある小説だと思います。

以下、内容の勝手な解釈です。

表題作は、じんめり暗くて、「死」を出していて、それでいてちょっとユーモアがあるところが、太宰みたいだと思いました。

「いいわけ」は、
「他人の目に肘鉄をくらわしておいて謝らなかったことがずっと以前にあったから、自分の目が痛むようになったという話」から始まり、
「先生に挨拶しなかったから、今もふらふらしているという話」で終わります。

その挨拶しなかった先生はひどいリンチを戦時中にした過去をもっているのですが、
その先生のリンチの話は強烈で、この話の核になっているように思います。
(だから、その話を聞く「図書準備室」がタイトルなのではと思いました。)

その残酷なリンチを戦時中「正しいこと」として、先生はし、
でも、戦後、そのリンチは「悪いこと」になりました。
リンチのシーンは読むに耐え難いほどむごたらしく描かれていますが、
でも、それほどのことでも「正しい」とする時代があったということを表現している狙いだとも解釈できます。
リンチを「正しい」か「悪い」かを先生と主人公が話し、
その話の中で、戦争自体が悪かったのか良かったのかも曖昧になっていきます。

今、正しいことが、情勢が変われば悪いことになる。
正しいとする理由は後付けでしかない。
「他人の目に肘鉄をくらわしておいて謝らなかったことがずっと以前にあったから、自分の目が痛むようになった」
「先生に挨拶しなかったから、今もふらふらしている」
原因と結果がムチャクチャに書かれているのはそのことが言いたかったのではないかと思います。

「いいわけ」から読み取れるのは、そんなことです。

そこで最初の「なんで働かないの?」という叔母の質問が甦ります。

今、正しいことが、情勢が変われば悪いことになる。
正しいとする理由は後付けでしかない。

そう考えたら、叔母の質問自体が無意味になっていきます。
「なんで働かなければいけない理由があるのか?」
「なんで働いていないことに理由が必要なのか?」
「もし、理由があったとしても、その理由は曖昧なものでしかないのではないか?」

でも、人間生きていかなくてはならないので、「どうするの?」と、従兄の娘に聞かれるのだと思います。
答えは、ユニークなものでした。

以上、勝手な解釈をする余地がある物語で、考える楽しみをくれました。

「冷たい水の羊」は、いじめについて、いじめる側いじめられる側周辺の側から多角的に考え抜かれて書かれていて、ラストの「待ってて」にいじめがあってもそれでも生きる救いが見えてちょっと感動しました。


総合評価として       おすすめ度
芥川賞候補作にもなった表題作『図書準備室』、そして新潮新人賞受賞の
デビュー作『冷たい水の羊』の二つが収録されたこの本自体の総合評価と
しては☆3つですが、表題作の『図書準備室』だけだったら☆5つです。
『冷たい水の羊』だけの評価だと☆2つでしょうか。

『図書準備室』は第136回芥川賞候補になりましたが、まったく相手に
されず落選しました。この作品を評価し、推した選考委員は池澤夏樹さん
ただ一人だけでした。山田詠美さんも読み始めた最初の感触では「推して
もいいかな」と思ったそうですが、鶏小屋のエピソード以降を評価するこ
とができないとしていましたが、僕にはそれだけ魅力的な作品だったから
そういう意見も出たのではないかと思います。
この『図書準備室』という小説は、徹底的に主人公の「言い訳」によって
成り立っている小説です。喋る、喋る、最初から最後まで延々と主人公は
あーだこーだと喋り続けます。しかもその内容が凄まじい。これはぜひ読
んでください。本当に凄まじいですから。
そして、最後に置かれている脱力系のオチ。饒舌文体で衝撃的なエピソード
が並べられる中で最後の最後に訪れるオチには笑わせられました。読んでいる
途中はそこまで評価していませんでしたが、読み終わってからは最高に面白い
小説だと思うに至りました。いやあ、あのオチはいいなぁ。でも、このオチ
がなんなのか知っただけでは面白くないんです。あーだこーだと主人公の饒舌
な「言い訳」に付き合ってこそ最後の最後で脱力と笑いをもたらしてくれます。
この小説に芥川賞をとってほしかったですね。

もう一つの収録作『冷たい水の羊』は、作者の新潮新人賞を受賞したデビュー
作です。空気感だけで言えば『図書準備室』に通じるところもありますが、
全体としてはあまり面白くありません。ただ、この作品を読んでから『図書
準備室』を読むと、あきらかなレベルアップを感じることかできて、興味深い
です。

田中慎弥さんには期待です。


馬鹿にしていると意外に手ごわい       おすすめ度
 引きこもりである主人公の独白が冗長に続く序盤は、もっと巧く書けるんじゃないかと思えるし、変なところで脱線する文脈も効果的とは思えず、併録「冷たい水の羊」よりは評価が落ちると思っていたが、終盤にかけては筆者の非凡な文章に圧倒されることになる。だてに芥川賞候補ではないと云う手ごたえを最後に漸く得ることが出来た。