「死の棘」日記
作者 島尾 敏雄
価格 2,310 円
出版社名 新潮社
出版年月 2005/04/01
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■読者の評価     おすすめ度平均

夫婦の愛憎の深遠さを描いて鋭いが作者には甘えが       おすすめ度
特攻隊員のヒーローだった島尾敏雄が遂に飛び立つ事はなく、琉球王家の血を引く歌人の大平ミホと結婚。自らの浮気が原因で修羅場に陥った家庭の有様を日記に綴ったものを、ミホが公開したもの。

浮気が発覚する前には放縦な生活を送り、浮気発覚後の騒動の末、遂にミホが精神に異常をきたした後はひたすら妻に尽す。そして、この間の凄惨な愛憎関係を淡々と日記に綴る。島尾の定見の無さが窺える。この間の様子は小説「死の棘」で発表しているが、日記の方が生々しい。ただ、檀一雄「火宅の人」と同様、こうした自身の家族の悲惨な様子を晒す手法は私は好きになれない。

檀一雄も島尾敏雄も結局は"無能の人"だったのだと思う。作中に吉本隆明などから援助を受けた旨が記載されているが、結局周囲(ミホを含む)に甘える事でしか生きて行けない人だったのだ。ミホは島尾の死後三十年間、喪に服していたと言う。夫婦の愛憎の深遠さを感じる。

破滅型私小説作家の裏側を抉り、反面教師の役を果たしてくれる書。


小説の読後には、こちらの日記を・・       おすすめ度
私としては島尾敏雄の「死の棘」を読後、こちらを読んで欲しいのですが、
小説にも増して、家族の凄まじい葛藤が描かれています。既に著者自身は
二十年近く前に没しているので、本書は妻であったミホが公開したものです。
巻頭のミホの記にもありますが、敏雄の没後、二十年もの間喪服を
纏っているミホがおり、それが昭和30年に前後して行われた夫婦の
愛憎の末の狂乱の残り火であることを思うと、それだけでも凄惨な状況を
思うことができます。
そのような最中に、細かい状況まで敏雄が淡々と書き記した日記には、
敏雄が日記を付けている段では、毎日心の中が処理されており、第三者的で
冷静な言葉が並んでいることに更なる驚きを感じてしまいます。
この連続した日々の記録を受け止めるには、まずは一度小説を読み、
夫婦の葛藤を受け止めた上で日記へと入られることをお勧めいたします。


棘の痛みを一緒に・・・       おすすめ度
遂に出撃命令の出なかった特攻隊長だった著者島尾敏雄の、戦後10年目の平和日本社会での凄惨な夫婦生活の記録である。

毎朝、妻(ミホ)の反応を見極めることから著者(僕)の一日が始まる。かつての僕の不倫は、ミホの精神に決定的な傷痕となって深く残っている。その棘の傷が疼かないように祈るしかない僕が、およそ離婚などという当世風の逃避を思いつくことすらなく、ただただミホの攻撃に耐える毎日の記録を読むと、人を裏切ることを知らなかったミホの純真さが哀切に迫ると共に、やはり、最後に真の情愛を交わせるのは、夫婦という他人同士しかないのだろうか、という思いを抱かせられる。

そして膨大な日記の中で、時折訪ねてきたり便りをくれる、吉行淳之介、奥野健男、吉本隆明、庄野潤三などとの交友部分は束の間の涼風のようにホッとする時間である。