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■読者の評価
おすすめ度平均
知られざる星の素顔 おすすめ度
本書はその星新一の生い立ちと父親,生涯つきまとう星製薬との関わり,そして作家’星新一’と日本SFの誕生とその生涯をまとめた多くの証言と資料に基づいた評伝であり,傑作である.星新一の作品はショートショートを問わず長編やドキュメンタリーでも,簡明な文体に醒めた視点が特徴であり,私はその作風から長年,飄々とした印象を持っていた.確かに,SFファンにとっては宇宙塵やSF作家クラブなどの例会における星の言動はよく知られていたことである.しかしながら,本書では確かに星のそのような面があったことを述べながら,それとはまったく異なる星の一面を描いており,それは私にとっても大きな衝撃であり,それは多くの他のファンも同様ではないであろうか.
そもそも,私が星新一のショートショートに出会ったのは小学生であり,やがて星から離れファンタジーやサイバーパンクに移った.星を読まなくなったのは,この作家は子供向けであるというイメージがどこかしらあったためであろう.星の作品には血湧き肉躍るわくわく感や男女の機微はなく,思春期の少年には物足りなかったろう.また太宰や三島のような高尚な文学とも感じられなかった.とはいえ,書店では平積みも多く大変売れていたという印象がある.
しかしながら,本書はそれこそが星の苦悩であったと指摘する.確かに売れ続けてはいても,所詮は子供向け,ただのエンターテイメントと見下され,かつては直木賞の候補にもなったが受賞できず,その後もほとんど賞らしき賞はなく,文壇に認められぬことを愚痴り,苦悩していたことは,一般的に星の作品から受けるイメージとはまったく異なるものである.名誉や評価を欲した醜さ,そして晩年の作品の生き残りをかけた手直しは,ほとんど妄執ともいえる執念を感じるのである.
まったく「人間を書いていない」と言われた星の,なんと人間的であることか!
作品から読み取ることのできぬ作家の素顔,それは星が書き手として一流であることの証である.しかし,本書で明かされたその素顔との差はあまりにも大きい.
今,あらためて『最後の地球人』(『ボッコちゃん』収録)を読み直してみた.物語のラスト,聖書から引用した「光あれ!」という言葉を原稿用紙に記したとき,星は何を思ったか.SFが遂に文学として認められる未来を見たのだろうか.
そもそも,私が星新一のショートショートに出会ったのは小学生であり,やがて星から離れファンタジーやサイバーパンクに移った.星を読まなくなったのは,この作家は子供向けであるというイメージがどこかしらあったためであろう.星の作品には血湧き肉躍るわくわく感や男女の機微はなく,思春期の少年には物足りなかったろう.また太宰や三島のような高尚な文学とも感じられなかった.とはいえ,書店では平積みも多く大変売れていたという印象がある.
しかしながら,本書はそれこそが星の苦悩であったと指摘する.確かに売れ続けてはいても,所詮は子供向け,ただのエンターテイメントと見下され,かつては直木賞の候補にもなったが受賞できず,その後もほとんど賞らしき賞はなく,文壇に認められぬことを愚痴り,苦悩していたことは,一般的に星の作品から受けるイメージとはまったく異なるものである.名誉や評価を欲した醜さ,そして晩年の作品の生き残りをかけた手直しは,ほとんど妄執ともいえる執念を感じるのである.
まったく「人間を書いていない」と言われた星の,なんと人間的であることか!
作品から読み取ることのできぬ作家の素顔,それは星が書き手として一流であることの証である.しかし,本書で明かされたその素顔との差はあまりにも大きい.
今,あらためて『最後の地球人』(『ボッコちゃん』収録)を読み直してみた.物語のラスト,聖書から引用した「光あれ!」という言葉を原稿用紙に記したとき,星は何を思ったか.SFが遂に文学として認められる未来を見たのだろうか.
SFの人、必読 おすすめ度
ご他聞に漏れず、読書遍歴の入り口に、星新一が居た。他に比較するものもないうちから、高級品を食べてしまったことが、どれほど読書の味覚を狂わせてしまったか、と愚痴を言っても仕方がない。
さて、星新一が、星製薬の御曹司であり、戦後会社の借金で苦労した、という話は知っていたが、では具体的にどういうことがあったのか、知るすべがなかった。
この本は、ファンが気にしつつ知る由もなかった星新一の作家になるまでの履歴を描いている。いやあ、大変だったんですねえ。と言いたいところだが、上流階級の暮らしぶりや人的交流を知れば知るほど、そんな苦労、苦労じゃないんじゃね?と感じて仕方がない。
この本を読むだけだと、結局回りの人たちに守られた御曹司、というイメージが固着しそうである。もうちょっと苦労を具体的にドロドロと描くことは出来なかったのだろうか?
しかし、デビューしてからの星新一がどのような人物であったかを知るには役に立つ評伝である。他のSF作家に慕われたというその性格を色々なエピソードから浮かび上がらせる手腕はたいしたものである。また日本SF黎明期がどのような雰囲気であったかを上手くまとめていると思う。そっちの苦労のほうが興味深かったともいえる。
それにしても、SFの人たちは、元祖オタクだったのだなあ。
さて、星新一が、星製薬の御曹司であり、戦後会社の借金で苦労した、という話は知っていたが、では具体的にどういうことがあったのか、知るすべがなかった。
この本は、ファンが気にしつつ知る由もなかった星新一の作家になるまでの履歴を描いている。いやあ、大変だったんですねえ。と言いたいところだが、上流階級の暮らしぶりや人的交流を知れば知るほど、そんな苦労、苦労じゃないんじゃね?と感じて仕方がない。
この本を読むだけだと、結局回りの人たちに守られた御曹司、というイメージが固着しそうである。もうちょっと苦労を具体的にドロドロと描くことは出来なかったのだろうか?
しかし、デビューしてからの星新一がどのような人物であったかを知るには役に立つ評伝である。他のSF作家に慕われたというその性格を色々なエピソードから浮かび上がらせる手腕はたいしたものである。また日本SF黎明期がどのような雰囲気であったかを上手くまとめていると思う。そっちの苦労のほうが興味深かったともいえる。
それにしても、SFの人たちは、元祖オタクだったのだなあ。
魂の千夜一夜 おすすめ度
10年ほど前、「驚きももの木20世紀」という、三宅裕司が司会の伝記バラエティ風テレビ番組があり、そこで星新一
が取り上げられたことがありました。その時のタイトルが「魂の千夜一夜」。
たったひとつのショートショートを書くために、星新一がどれほど苦悩し、呻吟し、身を削ったかが、克明に紹介されて
いました。
それを更に詳しく、深く掘り下げ、星新一の人間像に迫った本作は、星新一の作品が好きで、作品を読むだけでは飽き足
らなくなったファンをも唸らせるに十分な労作だと思います。
本作の星新一像は、あくまで筆者のものですが、いずれにせよ、あれだけの傑作群を生み出した星新一という作家にはこ
ういう一面もあったんだな、と興味深く読みました。
が取り上げられたことがありました。その時のタイトルが「魂の千夜一夜」。
たったひとつのショートショートを書くために、星新一がどれほど苦悩し、呻吟し、身を削ったかが、克明に紹介されて
いました。
それを更に詳しく、深く掘り下げ、星新一の人間像に迫った本作は、星新一の作品が好きで、作品を読むだけでは飽き足
らなくなったファンをも唸らせるに十分な労作だと思います。
本作の星新一像は、あくまで筆者のものですが、いずれにせよ、あれだけの傑作群を生み出した星新一という作家にはこ
ういう一面もあったんだな、と興味深く読みました。
日本の戦後SF史と共に。 おすすめ度
良い本に出会いました。ショートショートの名手、SF作家の星新一の評伝。星新一は、「偉いというのは、知っているだけでなく、誰にでも伝えられること。」という言葉と一緒に挙げる、尊敬する人の一人です。
前半こそ、星新一とその父親の話ですが、中盤以降は、まだ存命の日本のSF開拓者の名もでて、星新一ファンとしての読み応えに加え、日本のSF史の一面、出版というビジネスとその読者層の一面、そして一人の職人の盛衰人生が読み取れて、物悲しい面もあります。
本に関して、私自身で思っているだけですが、不思議な縁があります。用も予定もないのに本屋に行くと、納得して買ってしまう本が知らずに出ていたりといったこともそうです。
今回は、三月に出たこの本を買って積読だったのですが、そのつもりではないのに「Nippon2007 世界/日本SF大会」が終わることを待って読む形になったことに、なにかしらの縁を感じました。その感慨は、SF大会で目にした、ふたつのことによっても深くなりました。
ひとつは、「星新一の墓参り企画」。
日本SF大会では、一時間ごとにA4のコピーで刷られた「時刊新聞」という瓦版があります。記事は関係者が書いて寄せるほか、企画を立てている人、参加している人も寄稿ができます。
この中で見て驚いたのが、9月1日に配布された「星さん号です」とされた一枚。これが、作家の新井素子さんが、9月3日の午後に星さんの墓参りに行こうという呼びかけたものだったのです。数千人が集まる世界大会。それもこの会場でなら日本人はみんな星新一を知る人ばかりだろうと思われる中であるのに、このことを呼びかけることができるのは、すごいと思った。普通であれば、それほどの人数に有名人の墓参りを呼びかけたら、人数が膨れ上がるのでは?と思いそうなことだ。だがそれが、Nippon2007のクロージングでも紹介された柴野拓美さんの言葉、
「お隣の人の顔を見てください。その人もSFが好きなんですよ。」
を当然としている企画であることに改めて驚いた。
ふたつめ。上の言葉は、クロージングでも実行委員長が使い、第一回日本SF大会での言葉なのだと紹介されたが、この本でもそれには触れられている。その年、昭和37年。今回のクロージングで当の柴野拓美さんがファン ゲスト・オブ・オナー として壇上で挨拶したとき、
「日本で世界SF大会が開かれ、その壇上にいるなんて、もう死んでもいい。…だけど、そういってもやっぱり、また次を見たい。」
とおっしゃった。この先を見たいという好奇心、探究心こそ、SFファンの証のひとつなのだろうな、と感じた。見た目でもお年を召しているのはわかるので、そこはそれで「嬉しいだろうな。」と、その時は思った。
だがこの本を読んで、戦中から生きて、終戦、戦後の復興期と、SFが成長し、広がり、また特定のファンのものに落ち着いたすべてを見てきた人として、また同世代の仲間の幾人もがすでに他界している(その中には星新一も含まれている)中での感慨の深さは、30年ちょっとしか生きていない私が到底思いが及ぶようなところではないと思い知らされた気がした。
星新一がどのような人物だったのか。著者は作品を読むだけで全く知らないことに気づき、調べてみてショートショートの短い物語の向こうに、どのような人物がいるのかに興味をひきつけられたとあとがきで述べている。そして読んでみて、エッセイなどでは語られていない人物としての星新一の来歴は、確かに波乱万丈な物語のひとつとさえ思うほど。
まさに私にとっては、いまのタイミングで読むべき本でした。
前半こそ、星新一とその父親の話ですが、中盤以降は、まだ存命の日本のSF開拓者の名もでて、星新一ファンとしての読み応えに加え、日本のSF史の一面、出版というビジネスとその読者層の一面、そして一人の職人の盛衰人生が読み取れて、物悲しい面もあります。
本に関して、私自身で思っているだけですが、不思議な縁があります。用も予定もないのに本屋に行くと、納得して買ってしまう本が知らずに出ていたりといったこともそうです。
今回は、三月に出たこの本を買って積読だったのですが、そのつもりではないのに「Nippon2007 世界/日本SF大会」が終わることを待って読む形になったことに、なにかしらの縁を感じました。その感慨は、SF大会で目にした、ふたつのことによっても深くなりました。
ひとつは、「星新一の墓参り企画」。
日本SF大会では、一時間ごとにA4のコピーで刷られた「時刊新聞」という瓦版があります。記事は関係者が書いて寄せるほか、企画を立てている人、参加している人も寄稿ができます。
この中で見て驚いたのが、9月1日に配布された「星さん号です」とされた一枚。これが、作家の新井素子さんが、9月3日の午後に星さんの墓参りに行こうという呼びかけたものだったのです。数千人が集まる世界大会。それもこの会場でなら日本人はみんな星新一を知る人ばかりだろうと思われる中であるのに、このことを呼びかけることができるのは、すごいと思った。普通であれば、それほどの人数に有名人の墓参りを呼びかけたら、人数が膨れ上がるのでは?と思いそうなことだ。だがそれが、Nippon2007のクロージングでも紹介された柴野拓美さんの言葉、
「お隣の人の顔を見てください。その人もSFが好きなんですよ。」
を当然としている企画であることに改めて驚いた。
ふたつめ。上の言葉は、クロージングでも実行委員長が使い、第一回日本SF大会での言葉なのだと紹介されたが、この本でもそれには触れられている。その年、昭和37年。今回のクロージングで当の柴野拓美さんがファン ゲスト・オブ・オナー として壇上で挨拶したとき、
「日本で世界SF大会が開かれ、その壇上にいるなんて、もう死んでもいい。…だけど、そういってもやっぱり、また次を見たい。」
とおっしゃった。この先を見たいという好奇心、探究心こそ、SFファンの証のひとつなのだろうな、と感じた。見た目でもお年を召しているのはわかるので、そこはそれで「嬉しいだろうな。」と、その時は思った。
だがこの本を読んで、戦中から生きて、終戦、戦後の復興期と、SFが成長し、広がり、また特定のファンのものに落ち着いたすべてを見てきた人として、また同世代の仲間の幾人もがすでに他界している(その中には星新一も含まれている)中での感慨の深さは、30年ちょっとしか生きていない私が到底思いが及ぶようなところではないと思い知らされた気がした。
星新一がどのような人物だったのか。著者は作品を読むだけで全く知らないことに気づき、調べてみてショートショートの短い物語の向こうに、どのような人物がいるのかに興味をひきつけられたとあとがきで述べている。そして読んでみて、エッセイなどでは語られていない人物としての星新一の来歴は、確かに波乱万丈な物語のひとつとさえ思うほど。
まさに私にとっては、いまのタイミングで読むべき本でした。
希望をもらった おすすめ度
何度も読み返した。読むたびに心うたれる。
初めて手にした子供本以外の小説は北杜夫と星新一の著作だった。これは幸福なことだ。優れた良識と教養の持ち主が文学への扉を開いてくれたのだから。最相さんのこの優れた評伝を読んで、その思いを新たにした。星新一がますます好きになった。飄々としたイメージの星さんが苦悩し嫉妬し迷った姿を知ったことで、星さんへの尊敬が増した。また悩み苦しむ自らが力づけられる気がした。すばらしい本です。
初めて手にした子供本以外の小説は北杜夫と星新一の著作だった。これは幸福なことだ。優れた良識と教養の持ち主が文学への扉を開いてくれたのだから。最相さんのこの優れた評伝を読んで、その思いを新たにした。星新一がますます好きになった。飄々としたイメージの星さんが苦悩し嫉妬し迷った姿を知ったことで、星さんへの尊敬が増した。また悩み苦しむ自らが力づけられる気がした。すばらしい本です。

