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取り立てて珍しいものが題材になっているわけではない。
カレーだとか(『カレーライフ』)予備校の特待生10名が暮らす寮生活と
その後の人生だとか(『風に桜の舞う道で』)など、日常その辺に転がっているものを描いている。
なのに、思いがけない展開と細かい心理描写のせいか、「面白かった小説」と妙に印象に残っているものが多いのだ。
この『自転車少年記』は、幼馴染の少年二人が、自転車をきっかけに知り合い、遊び、恋をして大人になっていく話。
そこにはいつも自転車があって、人生の山も悩みも、自転車と一緒に乗り越えていく。
心臓破りの坂のような、急な坂を一度も足をつかずにこいで上っていくことに挑戦したり、
遠くに見える海に向かって自転車を走らせたりと、
少年たちはいつも自分たちの限界の一歩先を目指す。
それは、自転車技術の向上への努力に見えて、自分自身の成長への努力にほかならない。
読んでいて、思わず「がんばれ」と手を握りたくなる、そんなお話です。
堂々400頁を超える長編ですが、語り口のテンポの良さとスピード感のあるストーリで、文字通り「あっ」という間に読み終えてしまったような気がします。自転車に乗ることの楽しさがよく描かれているほか、主人公たちの成長を見守る著者の視線はとても優しく、爽快で気持ちの良い物語でした。
今年40歳の小生ですが、思わず感情移入してしまってたいへんです。よし、明日は晴だ。また自転車に乗るぞ!
物語は長い年月のトンネルを、前へ前へと進む。
本文中で書かれている様に、自転車にはバックギアはなく、
時間を戻す事は出来ないし、文字道理、自力で進むしかない。
「特訓山」で培われた昇平と草太の根性は、自転車部にも引き継がれ、
その後も、困難にぶつかっても、前に進む事をあきらめる事はなかった。
それぞれが、前に進んだ結果、着実に道が開ける。
道とは、人の輪であったり、恋愛の成就であったり、司法試験合格であったりする。
淡々とした、この物語は何と爽快なんだろう。
最後にもたらされるものは、幸福と、その予感だ。
それは、単に作品の中だけの話ではない。
読者にも、最大級の幸福をもたらす。
遡れば、自転車によって運ばれた、幸福の味は格別だ。
読んでいてこんなにすがすがしい気持ちになれた本は久しぶりです。
成長小説はたくさん読んできたけど、「自転車」というアイテムにこだわった点が何より見事でした。
昇平と草太の出会いは4歳の時。
補助輪なしでの自転車乗りの練習をしていた昇平が、坂道の猛スピードで草太の家の生垣に突っ込んだ日から、29歳になり300キロの自転車ラリーに出るまでの25年間を描いているのですが、二人の人生の節目には必ず自転車があるのです。
同級生たちに差をつけるために坂道で怖がらずに自転車に乗るための特訓をしたこと、海まで何時間もかけてサイクリングしたこと、高校で自分たちで自転車部を発足したこと、東京で暮らし始めるために東京まで自転車上京したこと・・・二人の青春にはいつも自転車がある。自転車によって人間関係も開かれた。好きなものでつながっている人々の連帯感ってやはりすごいですよね。
忘れてならないのが、二人と中学校で出会う伸男。
この作品の3人めの主人公。第3の男。
自転車屋のおじさんを持つ彼は、二人の自転車のメンテを手掛けます。この作品においても重要な存在です。後半に唯一、彼をメインに描く章があるのですが、そこから最後まで私の涙腺は開きっぱなしでした。
ラストの連帯感は爽快です!
「悲しい」とか「かわいそう」ではなく、「感動」で泣ける小説でした。
自転車に乗れるようになった4歳から始まるこの物語は、風を切るスピード感や流れゆく景色、汗、登り坂下り坂・・・実際のそれらもふんだんに描かれていますし、何より、少年が大人になっていく様子が、自転車で走ることに重ね合わされていて、爽やかな作品になっています。言葉にすれば平凡ですが、失敗、挫折、出会い、別離、恋、仕事・・・竹内氏は昇平と草太、伸男らに託して、人が生きていく上で遭遇し、選択しなければならないさまざまなポイントを、たくさん織り込んで飽きさせません。
昇平は昇平らしく自分の人生を走り、草太は、いくつもの現実の前に失望もし、選び取り、じっくりと前を見据え、伸男は好きなことに打ち込むことで、夢を実現させようとしています。彼らからつながって、人と人との関係が広がっていくことも、竹内氏の考えかたがよく反映されていると思われます。
二段組、413ページという長い物語ですが、本の背に、“THE WIND AND THE BOYS”とあるように、風と少年たちが駆け抜けてゆくさまに見とれているうちに読み終わってしまいました。

