八日目の蝉
作者 角田 光代
価格 1,680 円
出版社名 中央公論新社
出版年月 2007/03
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    第2回 中央公論文芸賞  受賞
    本屋大賞 2008年   受賞
逃げて、逃げて、逃げのびたら、私はあなたの母になれるだろうか−−理性をゆるがす愛があり、罪にもそそぐ光があった。家族という枠組みの意味を探る、著者初めての長篇サスペンス。

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■読者の評価     おすすめ度平均

感動的ではあるが       おすすめ度
感動的ではある。犯罪者であるのに季和子に同情し、薫との生活がいつまでも平和に続くようにと願いたくなってしまう。エンゼルホームの生活にもリアリティがある。ホームの女性たちも世間の批判の目にさらされながらも信念を持って力強く生きている。
彼女たちの強さに比べ、ただ二人きりの男性の秋山と岸田がなんと優柔不断で頼りないことか。

だが現実問題として、妻子ある男の子どもをみごもった、家族の援助も得られるかどうかわからない(おそらく得られない)19歳の大学生が、医師の「緑がきれいなころに生まれるねえ」の一言だけで「生む」と決心できるものか。
もちろん、ここで中絶してしまったらストーリーとしては成り立たなくなるのだろうが。
それから、私の周りにはそういう人はいないのでいまひとつわからないのですが、人はそんなに簡単に不倫関係におちいるものなのでしょうか・・・。

ラストシーンが、「涙の再会」でなくて良かった。


「悪人」との対称性と、その意味するもの       おすすめ度
この物語の持つ深い情感は、普遍的な名作のものであるが、
そのモチーフは、今の時代を切り抜いている。

強く感じたのは、吉田修一の「悪人」との対称性である。
犯罪、逃亡、道連れ、希薄な人間関係、
他者との邂逅、豊かではない生活感、
そして善悪の真偽と世間、別離と再会への希望。

それらが、男女の性別を軸にして、
ロールシャッハテストのように左右に広がったようだ。

似たような時期に同じように新聞連載で、それぞれの話が別々に展開され、
またそれぞれに代表作となったのは、なんとも象徴的な気がする。

それは、文学、善悪、世相といった広い範囲に、
多くのもの、重いもの、を投げかけたと思える。
時代の産んだ双子の名作。

子供を誘拐した直後の、やわらかく、重みや体温を感じさせる描写
それを慈しみ、世話をし、抱いて逃げていく主人公のくだり。
自分もまた、だれかに愛され育てられたのだ、という感慨が沸いた。


救いを求めて       おすすめ度
 読み終わった後、説明使用のない安堵感に包まれた。私は私らしくそれでいいのだという自尊感情が芽生えた。
 子どもを持ち母となり、その責任と役割に時折押しつぶされそうになる、今のままで良いのだろうか、私は良い母だろうか。そんな漠然とした悩みを抱えている方にぜひ読んで頂きたい。内容そのものよりも、読後の不思議な感覚を味わっていただきたいと思う。


癒しの小説       おすすめ度
人間のずるさや難しさ、また弱さ、過ちなどを
どこまで深く、そしてリアルに描き出しながらも、
同時に人をやさしく包み込むような陽のあたたかさを感じる作品。

恐らく渾身の力を振り絞って、
二人の女性に命の息吹を注ぎ込んだ角田さんの
その力量に脱帽です。
もうこれは小説の域を超えた
「神懸かり的な作品」に仕上がっているように感じました。

テーマはいろいろとちりばめられているとおもう。
けれどその中でも特に「命の尊厳」「母性愛」がこの作品の根幹を支えているように思いました。
とてもメッセージの強い作品だけれど、意外にも変な説教臭さがない。
最後の部分まで読みすすめると、
いつの間にかそのメッセージに自然と心が突き動かされていました。

ジェンダー、社会的地位そういったものを超えて、
どんな立場の人間が読んでも何らかの感動を得ることができる、
そういった作品はまれだと思うし、この作品はまさにそれではないでしょうか。

ちなみにぼくはこの作品を読みながら、
男という存在がもつ「ずるさ」「浅はかさ」を自分の内面にも見いだしただけでなく、
二人の子供を産んでくれた妻、そしてこの世に生まれてきた子供たちに対しての知れない愛おしさが心にこみ上げてきた。

しばらくしてまた読み返したい、
そう心から思える作品です。
この作品に出会えたこと、ホント幸運でした。



八日生き延びた蝉のように。       おすすめ度
私がちいさな子供をもった女でもなく、警察に追われる犯罪者でなくても、
主人公が逃げまくる様に強烈な共感をおぼえるのは、
私も同じように、向き合わなければならない某かの現実から逃げ、

「この平穏な日々はいつまでつづくのだろう。
毎夜、私は考える。
そんなにうまくいくはずがないと思う日と、
いつまでも続くに決まっている、私と薫は何ものかに強く守られているのだからと
確信するように思うときもある」

と、調子良くのうのうと生きているからではないか。

「蝉はずーっと土の中におって、出てきたらすぐに死んでしまうんで」

だから、犯罪者である主人公にいつか必ず訪れるであろう、破滅を
先延ばしに、一日でも先延ばしにと切実に願う。

八日生き延びた蝉のように。

描写に不足な所もあるが、切実に訴えかけてくる疾走感とも感じられるものがある。
いい、作品だと思う。