転生夢現〈上〉
作者 莫 言
価格 2,940 円
出版社名 中央公論新社
出版年月 2008/02
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■読者の評価     おすすめ度平均

非常に面白い       おすすめ度
NHKで作者の莫言氏が「重さを軽快に、辛さを楽しく書いた作品」と紹介していたのを見て興味を持ち読みました。莫言氏の作品を読むのは初めてですが、非常に奇想天外で面白い作品です。
上巻では初っぱなから主人公の西門鬧が銃殺され地獄に落とされ、その後ロバ、牛、豚に転生します。栄華を誇っていた西門の家族達は土地改革によって崩壊し、翻弄される様が転生した動物(ロバ、牛、豚)の視点から悲しくも軽快に描かれています。筆力もすばらしく、絵画のような描写で読後は革命時の民衆の生活が目に映るようでした。
「土地は中国の近代史と密接に関係している」と作者が本書の紹介で言っていましたが、生きのびるために土地を奪われていく様が農民の視点から描かれていて、非常に重いテーマを扱っている作品です。世界史ましてや中国史について全く知識ゼロでしたが、本書を通して彼らの背負う重い歴史を垣間見ました。隣国を知る良い書です。是非多くの人に読んで頂きたい作品です。


凄いです       おすすめ度
 作者の莫言(モオ・イエン)は「アジアで最もノーベル賞に近い作家」だそうです。チャン・イーモウのデビュー作「紅いコーリャン」という映画の原作者で多作な人ですが、読むのは初めてです。上下2巻、800ページ以上の大作。
 いやはや凄い小説です。NHKBS2の「週刊ブックレビュー」で、いしいしんじ氏が「今まで読んだ小説ので一番面白い!」みたいなことを言っていたので買って読んだのですが、なるほど、です。
 1950年から現在までの中国の激動の歴史を背景に、作者の出身地である中国山東省で土地改革で銃殺された地主・西門鬧が、その怨恨を閻魔大王に訴え、現世に転生するのですが、それがなんとヒトでなく、ロバ、牛、豚、犬、猿へと次々に転生し、近親者の身近に寄り添いながら激動の時代の推移をミクロな視点でつぶさに見るのです。ここには〈設定の勝利〉と言うべきものがあります。動物への生まれ変わりというのはファンタジー的な面白さ、動物の立場での生理や心理の描写の興味深さがあって引き込まれますが、この作品の狙いは、そこではなく、あくまでも人間社会の現実の動きを描くことにあるでしょう。(だから「夢幻」でなく「夢現」なんですね)
 それにしてもこの50年間の中国の変転はまたなんという激動でしょう。毛沢東時代の大躍進・文化大革命、一転しての改革開放、その荒波の中で翻弄される10億の民衆のサンプルがここにあります。西門家ゆかりの多彩な人々が辿る数奇な運命の劇的な展開。そのすさまじいエネルギー。いささか常軌を逸した行状がこれでもかとばかりに展開するのですが、あの国ならばかくもあらん、という印象で圧倒されます。
 私は中国現代史については一定の知識はあるつもりですが、こういう民衆の視点での等身大の生活の描写には、単に上の方の政治史を通覧するだけでは見えて来ないリアリティの迫力があると思います。作者の筆力は驚嘆すべきものです。
 以前に「中国の不思議な資本主義」や 「中国に人民元はない」を読んで、あの国の一筋縄では行かない文化をあらためて知らされた私だが、この作品では国柄は異なれど人間の真実の普遍性というものを、極端な形ではあれ、再認識させられたように感じます。

 強くおすすめしますが、各巻2800円と高いので、図書館などで借りてでも読むべき作品。