作者 池澤 夏樹
価格 620 円
出版社名 中央公論社
出版年月 1993/10
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■読者の評価     おすすめ度平均

人間と自然と世界の関わり方       おすすめ度
文体も読みやすく、割とすんなり読めてしまいますが、内容はかなり奥深い話です。
主人公の女性の体験を通して描かれるのは、人間と自然と世界の関わり方です。
現代の人間は自然(世界)に対して言葉を介在することでしか対峙することができなくなっています。(たとえ科学者でも)
自然を観察、分析、系統立てることで人間の許容範囲内にパッケージングし、管理、把握できると思い込んでいます。
結果細切れの各種情報を組み合わせることで、人は物事(自然)の本質からどんどん離れて行ってしまっています。
そんな中、頼子が出会う壮伍の手紙とハツの体験記は自然を(極力)そのままでダイレクトに捉えようとする形式です。
(逆に門田が取り組む「シェヘラザード」はまさに情報だけで一つの世界を構築する形式と言えます。)
人が言葉を介在せずダイレクトに世界と対峙できるのか?
頼子が火山と静寂の中で向き合うラストはそんな問いの一つの答えを暗示しているようです。


感じている事が全て       おすすめ度
主人公の頼子がたどりつく結末は、語られることがないまま物語が終わっている。

想像するにきっと何も起こらなかったと思われる。
目の前に起きる事柄においては。
ただし、頼子の心境においては
ただならぬ変化が起きたのではないかと思われる。

キーパーソンの門田。
道化的な存在と、その存在感がたまらない。
現実にもこういう人はたくさんいる。
切れるのだけれど、
自分でつくった論理の迷路で迷っている不器用さ加減がリアルで良い。


内容は面白いし、文章も巧い。       おすすめ度
1989年に書かれた作品なので、当時の社会の風潮なんかも
想像しながら読める。バブル末期の都会人の精神史、みたいな
視点から読むと面白いと思う。

最後に出て来る、著者の意味あり気な、野ウサギの喩え話には
ドキッ..とした。

著者がこの小説を通して、当時の読者に何を伝えたのか..
あの時代を客観的に分析できる現在だからこそ、この作品から
見えて来ること、考えてみる意義がある様に思う。

この作品の約十年後に、著者は「すばらしい新世界」という
長編作を出されているが、、ある意味、「真昼のプリニウス」
の続編とも感じさせる。メタファーとしてだが..


残念ながら最終的に何を伝えたい作品なのか理解する事ができませんでした       おすすめ度
主人公である女性火山学者「芳村頼子」が、遠い異国で遺跡の撮影を進める元恋人、新企画の立ち上げのために頼子の協力を願う広告会社社員、易を行う製薬会社社長など周囲の様々な人々の影響を受けながら、自身の心のうちを探る旅に出発する。

主人公が火山学者ということで、伊豆大島や浅間山が舞台となったり、起震車を用いた人工地震探査の話や浅間の観測所、峰ノ茶屋が登場するので少々興味を持ちながら読み進みましたが、残念ながら最終的に何を伝えたい作品なのか理解する事ができませんでした。また何を学ぶ事ができたのかよく分かりませんでした。

ぜひ多くの方の感想をお聞きしたいと思います。


物語、というもの。       おすすめ度
この話には、様々なー歴史や流れを感じさせるものーが描かれていました。
現在のシャハラザード。火山研究論文。現代的男性の恋。
それに対して、
過去の浅間山噴火を目撃した少女の記憶。易、というもの。遺跡を撮る男。
その他色々な要素が混ざり合っています。
それを通じて、現在の社会の、重みのある物語の不在、身に浸み込む実感の無さを感じました。
それを、一生懸命、あえて物語ー小説ーという枠を使って描こうとしている。
読みながら、自分もしっかと掴めるものを求めたい、そんな気持ちが育っていく。そんな、楽しい小説でした。