虚人たち (中公文庫)
作者 筒井 康隆
価格 740 円
出版社名 中央公論社
出版年月 1998/02
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    第9回 泉鏡花文学賞   受賞
同時に、しかも別々に誘拐された美貌の妻と娘の悲鳴がはるかに聞こえる。自らが小説の登場人物であることを意識しつつ、主人公は必死の捜索に出るが…。小説形式からのその恐ろしいまでの"自由"に、現実の制約は蒼ざめ、読者さえも立ちすくむ前人未踏の話題作。

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■読者の評価     おすすめ度平均

"虚構性"と人間心理の"不確かさ"を究極まで追求した独創的な傑作       おすすめ度
常に小説の"虚構性"を強調し、表現技巧に工夫を凝らす筒井が新しい挑戦を試みた意欲作。小説の"お約束"を全て放棄してしまうと言う破天荒な実験作だ。

一応、妻と娘を誘拐され、誘拐犯に昏倒させられた主人公が目を醒ます所から物語が始まるのだが、物語の進行が尋常ではない。「不確定性至上主義」を標榜する主人公の意識の絶え間ない流れの描写だけで話が進むのだ。まるでビデオカメラで主人公の頭の中を映し出しているよう。そして、その像は恐らく虚像なのだ。登場人物どうしの確かな関係や会話で意志を疎通し合うとか、リアルな風景描写をするとかの通常の小説作法は主人公(=作者)の頭にはない。「小説の登場人物やその言動はその物語の中では"現実"である」と言う前提を端から否定する。主人公が構築する虚空の世界が全てで、その中で主人公にとっては時間・空間的制約はなく、しかも主人公の思考・視点は「不確定」なのだ。冒頭の誘拐劇も真実か否か不明である。本作の内容は主人公が昏倒している間の無意識の世界かも知れない。そして、筒井の実験小説で良く見られる読点を使用しない計算された文体。ここまで通常の小説の"お約束"を破れるのかと感心する。誘拐事件を放っておいて、主人公が時と場所を越えて、取引先の会社を訪れたり、行きずりの男の妻の家を訪れたり、自身の会社を訪れたりするのも違和感がない。他の登場人物も各々の世界を持っているらしいが、主人公の世界では飽くまで虚像である。小説における"現実性"を徹底的に排除した"(虚像としての)自我の世界"である。実験作でありながらスリルやある種の怖さを味あわせる展開も見事。いつもの言葉遊びも健在である。

小説中の"現実性"を無謬に信じる一般の小説の"お約束"を嘲笑い、小説における"虚構性"と人間心理の"不確かさ"を究極まで追求した独創性溢れる傑作。


小説とはなんであろうか       おすすめ度
読後、小説、物語のルールの多さに気付かされる。そしてそのルールが破られる(暗黙の了解を否定する)と、どれほど七面倒くさくややこしい事態になるかも懇切丁寧にこの作品は示してくれる。
小説、物語のルールが破られているのだから、これは小説ではないのかもしれない。しかしこれはフィクションである。メタフィクション要素もある。となると、これはなんであろうか。
これは小説がどのように書かれていくかを描いた私小説的な、壮大なクエスチョンではないかと思う。つまりこれは小説であり、小説ではなく、私小説的な問題定義である。
つまるところ、小説とはなんであるかという問題を投げる挑戦だ。


うーん       おすすめ度
 筒井康隆、短編はめちゃくちゃ評価しています。
 この小説、やりたいことはよくわかる。登場人物が虚構の中にいるという大前提、作家が無視しなければならない大前提を無視した、大胆な作品。
 なんだけど、それだったらもっと他にやりようがあったんじゃないのだろうか、と思った。
 とにかく、僕は読むことを放棄せざるをえなかった。


暗黙の了解       おすすめ度
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手術は成功したが患者は死んだ       おすすめ度
単行本刊行は昭和56年、文庫本初版は1984年。解説で三浦雅士が指摘しているように、この小説の「今のところまだ何でもない彼は何もしていない。」という冒頭は衝撃的だ。小説というのは読み進まない限り、または書き進まない限り物語は展開しないという当たり前といえば至極当然の前提の指摘でもあるし、これまでの小説すべてに対する挑戦とも受け取れる。読点がなく(たぶん)改行の少ない文体。虚構性の異様に高い表現。例えば山水画が壁に掛かっていることに対して「山水画という字が書かれているだけという可能性さえある。」としている。それではおもしろいのかと問われればおもしろくなかった。8年ぶりに再読したのだが、形式としては成功しているが内容はおもしろくない。初読の時はすごいすごいと興奮した覚えがあるのだが、今回は「小説を読まされている」と感じた。何か書いてあったようでもあり何も書いてなかったかも知れない。未読の方に推薦。「着想の技術」(新潮文庫)に細かな解説あり。