余白の愛 (中公文庫)
作者 小川 洋子
価格 620 円
出版社名 中央公論新社
出版年月 2004/06
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■読者の評価     おすすめ度平均

明るい余韻を残します       おすすめ度
文庫の表紙の絵は内容とよく似合っている。
雨が降るように静かで、青空を包んだ曇り空のように、
落ち着いた穏やかな物語。

耳を病み、恐らく心をも病んでいる主人公は
一度自分から離れてしまったものは
もう二度と戻らないのではないかという不安を抱えている。
それは例えば声のように、去っていってしまった夫のように。
突発性難聴の耳は音を判断することができず、
心はまた現実と記憶とを区別できない。

不安定な彼女を支えるのはYと甥のヒロ。
二人は架け橋となり、食事をしたり話を聞いたり手を引いたりして、
明るい方へ彼女を導く。
たまに立ち止まったり、記憶の奥に戻ってしまったりしてもいい。
世界へ出るということは強さではない。
尊重、肯定の心なのだ。
全てを受け入れられる安心感と現実の明るさ、
しかもそれは本人の内から出すことができる、と
言われているように思う。

作者はYのように世界をくっきりと文字としており、
どのシーンも映像が浮かぶ。
冬の光のような、鈍いが確かに明るい余韻を残す。



幻想と現実       おすすめ度
 入り混じる幻想と現実。作品の雰囲気は同著者の「冷めない紅茶」に似ていた。違う点は読み終えて全ての謎が解決する所か。
 小川洋子の作品としては「博士の愛した数式」と同じくらいわかりやすい話であり、個人的には非常に助かった。このような作品を読まないと「私は小川洋子の作品をまったく理解できないのか?」と自己嫌悪に陥ってしまう。
 それでも私は小川洋子の作り出す冷たく、綺麗で、幻想的な世界が好きなのだけれど...


感情移入がしにくい物語       おすすめ度
「博士の愛した数式」を読んだときにも感じたことですが、物語中で交わされる速記者Yと主人公の女性の会話が、妙に文語的で感情移入がしにくかった…。

更に物語全体が非常に幻想的な雰囲気を帯びているにも関わらず、様々な設定だけは(不必要と思われるほどに)かなり詳細に描き込まれていて、これも何だか逆効果だと感じました。
時代はいつなのか、どこの国お話なのか…その辺をもっとぼかして描いてくれたほうが逆に読みやすかったのでは、という気がします。

ネタバレしてしまうと困るので書けませんが、ラストの落ち(速記者Yの正体)も「えー…何それ?」という感じでちょっとがっかり。



静かな記憶のあたたかさ       おすすめ度
 主人公「わたし」と速記者Yの静かで美しい関係が読者をやわらかな空気で包みます。記憶と現実・・・。もしかしたら、今の私は、どこかにいる本当の私の「記憶」かもしれない。そんないつもは感じないことを思ったりしました。