渋谷に里帰り
作者 山本 幸久
価格 1,470 円
出版社名 日本放送出版協会
出版年月 2007/10
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■読者の評価     おすすめ度平均

そこそこ楽しく読めるけれど、文章の美しさは今ひとつ       おすすめ度
主人公の造形や、ヒロインの女の子との淡い恋のゆくえは楽しめますが、寿退社の先輩のスーパーセールスウーマンぶりはちょっとやりすぎ感があります。こんなすごい人、会社は放っておかないと思うし、これだけやる人ならすぐ独立を考えると思います。文章はまだちょっとごつごつしてなめらかとはいえないかも。


さらりと楽しく読める点がマル       おすすめ度

玉の輿退職をする女性の先輩から、
渋谷地区の担当先の引継ぎを行うという
その状況だけで構成した巧みな小説。

32歳という、サラリーマンとしては本来
中堅どころとしてバリバリ働いていなくてはならない
ウダツの上がらない主人公の成長を縦糸に
バブル以降、渋谷の街の経年変化を横糸に
ラスト、カタルシスに昇華する流れは素晴らしい。

キャラクターがやや類型的ではあるが
さらりと楽しく読める点がマル。


仕事が面白くなる瞬間       おすすめ度
今住んでいる地元が舞台の『幸福ロケット』がとても面白かったので、
この本も期待して読みました。しかも、あの渋谷が舞台ならなおさらです。
期待以上に面白かったです。

主人公は小学校6年まで渋谷でパン屋の息子として育ち、土地を売って地方へ引っ越した裏切り者と言われることを恐れ、
20年も渋谷を「鬼門」として避けてきた、国立大学出身の食品会社営業マン峰崎稔32歳。
渋谷エリア担当で、バリバリと仕事をこなす先輩坂岡女史が寿退社することになり、そのあとを主人公が引き継ぐことになります。
無表情・無感動を絵に描いたような主人公が、嫌々ながらも坂崎と仕事の引継ぎをしていくうちに、営業マンとして、人間として、生き生きしてくるのが爽快です。
また、坂岡女史が仕事を辞める理由に至っては、自分の経験とも重なり切なくなりました、変わってないなあ〜と。

また、随所で描かれている渋谷の町並みの変遷は、30年前、毎日のように過ごしていた渋谷の街が思い出されて、とても懐かしかったのですが、
「ハチ公バス」にいたっては、「お母さん知らないの〜?!」と娘に言われる始末。

久しぶりに渋谷へ行ってみようかと本気で思ってしまいました、娘の案内付で!


それでも20年後の僕らは、この街で生きている       おすすめ度
  ノスタルジーって言うと、「三丁目の夕日」の1960年代がクローズアップされてるけど、この小説読むと、バブル〜失われた10年の80年代、90年代ってのもすでにノスタルジーの域なんだなって思う。でも、渋谷に電力館が出来たのなんてついこないだだと思っていたのに、1984年オープンだなんて、もう四半世紀かよ?っていう。同様に“アウトオブ眼中”とか“ジモティー”なんて言葉がすでに死語だって認識がおっさんには無くって、そこら辺の感覚差が若人との一番のギャップなんだろうな。物心ついたときにそれがあったか無かったかってのは大きい。タワレコや大盛堂の移転や旭屋の閉店なんてのもおっさんにとっては最近だけど、若者にとっては大昔になる訳で。話が長くなっちゃったけど、この小説では渋谷って街を象徴にして、バブル期以降の20年の意味、みたいなものをナチュラルに描いていると思う。「この頃がぼくの人生の頂点だったなあ」って言葉が出てくるけど、確かに80年代の半ばが渋谷って街の頂点であり、日本経済の頂点だったのかもしれない。それでも20年後の僕らは、この街で、この国で生きている。戦争や全共闘やバブルに対して「遅れてきた世代」なんて言い方があるけど、それってなんか言い訳っぽいよね。それよりこの主人公のような、一見、喜怒哀楽がなくって地味だけど意外に強かってのは頼もしい気がする。主人公=今の世代の象徴では決して無いけど。
  それと、坂岡女史と椎名課長っていう対極キャラなんだけど魅力的な上司と主人公の関係も好もしい。会社生活も捨てたもんじゃ無いっていうか。あと、なんと言っても八時半の女、今優里ちゃんと主人公の恋愛の成り行きが、ちょっと気恥ずかしいとこもあるけどいい!カリスマ店員と空間プロデューサーに憧れてたなんて恥ずかしい過去もナイスだし、“眉が太くて化粧が自然”って優里ちゃんの容姿もバブルの残影でナイスだ。


「負けるものか」という気持ち       おすすめ度
山本幸久さんの作品は、気張らず普通の人々を描く。ユルくてもダメダメっぽくても
とにかく等身大でいい意味で現実的で、気持ちよく読める。
会話や場所がリアルで、登場人物たちの空気が立ちのぼってくる。そこが好き。

「オシゴト系」の小説は先に『凸凹デイズ』が「キュートでコミカル、ちょっと
せつないオシゴト系長編小説」として出されているが、この作品には
「オシゴト系青春小説」と帯の惹句にあった。
そうそう!『凸凹デイズ』の世界がリンクして、そっちはそっちでやってるのを
垣間見られたのも嬉しかった。“ホリマッセ”も出てくるよ。

渋谷を故郷とする稔の心にある負い目。ひょんなことから、営業エリアが渋谷の
担当になったことから、稔は「渋谷」と真正面から向きあうことになる。
仕事を引き継ぐまでのわずかの間に先輩の坂岡から叱られながら、渋谷を歩き
営業の手腕を見せつけられ、そうするなかで気づき、背中を押されるように
少しずつ前向きになっていくさまが好ましい。
喜怒哀楽が顔に出ない稔でも、恋を自覚する出来事もおこる。
営業畑10年にして、仕事の極意の端緒をつかみかけた稔。
それに平行して、渋谷に関わらざるを得ない友情が復活したり、
故郷・渋谷への思いが新たに深くなったり……。
必死さを隠さない先輩や同級生との関わりが、稔を少しばかり変えたのだ。
だから、彼が「負けるものか」と繰り返しても、私は白々しく思わない。
稔に「負けるな」と声援を贈り、同じだけ前向きな気持ちをお返ししてもらった。