ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを (ハヤカワ文庫 SF 464)
作者 カート・ヴォネガット・ジュニア
価格 735 円
出版社名 早川書房
出版年月 1982/02
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■読者の評価     おすすめ度平均

愛おしい小説       おすすめ度
 『ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを』には「豚に真珠」という副題があります。
 大富豪でありながら慈善事業に一身を投げ出し、持てる財産を次々と減らしてしまう主人公エリオット・ローズウォーターさんの行動は
現代社会の一般的な視点から見れば異常と言うほかなく、実際、彼の父は息子を精神異常者扱いします。
 膨大な資産を有効に運営するだけでも汗水たらして日々働く労働者よりも収入が入る、
なのに息子は困った人を助けるために惜しげもなく財産を使う。彼にとって息子に財産を与えることは豚に真珠をやるも同然なのです。

 もちろんヴォネガットはそんなことだけを考えてこの副題を決めたのではない。
ヴォネガットが批判したいのはエリオットの父親のような金満家と、そういった人物を崇め、へつらってきた現代社会そのものなのです。
 エリオットはそうしたヴォネガットの心情を一身に引き受けており、そのために金持ちを尊敬しない。
彼が尊敬するのは他でもなく、日々を危険とともにありながらも命を賭けて人命を救う、消防士なのです。
そんなエリオットから見れば、俗にひたりきった金持ちが大金を持って気ままに振舞っていることこそが「豚に真珠」です。

 だが、この小説が真に凄いのは、単にエリオットの礼賛小説であることではなくむしろ、作中でおきる事件のことごとくがエリオットにとって不利なものであることです。
 妻は夫の行動を素晴らしいものと捉えつづけながらも度を越した慈善活動に疲れきり、結婚生活を継続することを諦めるほかなくなってしまい、
エリオットに恩義を受け、彼を慕った町の人々も、ひとたびエリオットが離れてしまうと手のひらを変えて悪し様に言うようになる。
 こんな世の中ではたして人は何のために生きるか、それがヴォネガットの残した課題だと思います。

 あまりにも途方もない理想家で、周囲の空気を読めず、度というものを知らず、だけども優しい。
そんなエリオットは紛れもなく作者ヴォネガットの人格の大部分を占めているでしょう。
 こんな金が支配するロクでもない世の中に、人間そのものに希望を持ち、
それを最後まで失いきることがなかったヴォネガットの魂が、天の上で「誰かさん」の恵みを得ることを心から願います。


良かった!       おすすめ度
ほのぼのとした表紙で、気軽な気持ちで手にしました。偶然、出会って良かった!と思える作品です。


ヴォネガットさん、あなたは偉大なカナリヤでした。       おすすめ度
私にとって今年の悲しむべき出来事の一つは作者ヴォネガットが4月に亡くなったこと。青春時代ヴォネガット愛読者だった者として、本作を久しぶりに読みかえしたのだが、ほろ苦さが蘇ってくる。やはり本作は傑作だ。今日、格差社会の問題が叫ばれているが、富の偏在、そして多数の貧しき者の疎外感の問題に対して、面白おかしくではあるが40年以上前に警鐘を鳴らしていた作者は、自ら述べていたようにいち早く危険を知らせる炭鉱のカナリヤであったのだ。心から冥福を祈りたい。

本書に戻って、主人公エリオット・ローズウォーターがとった行為は隣人「愛」だったのだろうか。貧しい人たちに同情し、金銭的な援助を与え、優しく接するとともに、火事の現場に駆けつけ、貧富にかかわらず人を救う消防士を理想とした彼の行動。読者によって評価は分かれるだろうが、私は大いなる「親切」だと思いたい。後年、作者は「愛は敗れても親切は勝つ」という名言を残すが、その「親切」にこの困難な世界の問題を解く鍵はありそうである。

本書でキルゴア・トラウトが初登場する。彼のおかしなSF小説の粗筋は妙に現実世界の本質をついており、本書の絶妙なスパイスとなっている。エリオットとトラウトは次作の「スローターハウス5」にも登場するので、そちらも是非一読して下さい。それでは、プーティーウィーッ?


<人間は滑稽で悲しく、そして愛しい。>       おすすめ度
悲劇は回避不能であるからこそ悲劇であって、愚かさ浅はかさまたは怠惰による壊滅的打撃は「悲劇的な喜劇」でしかない。ヴォネガット作品の根底に流れているテーマではないかと。
自己犠牲精神旺盛で博愛主義で、不特定多数の人間に大金を惜しみなくばらまくが、身近な家族への心遣いや理解などかけらもできない主人公始め、全ての登場人物が愚かで滑稽で醜くどうしようもない。
全ての人々が自分から修正不可能な「悲劇的な喜劇」に突っ込んでいく。でもすべての人々が愛おしい。
あれだ、「それでもヒトしか愛せない」の神髄だと思います。そんな寓話です。


素晴らしいの一言       おすすめ度
 「ベストセラー作家」ヴォネガットの誕生を祝うかの如く、とても前向きで、ブラックでありながら、大変ハッピーな作品に仕上がっている。エリオット・ローズウォーターは、等身大でありながらも、とてもマネできないような行動によって、読者の心を捉えて離さない。ラストのセリフが、最高にキマった、泣ける話といえばこれ。