九マイルは遠すぎる (ハヤカワ・ミステリ文庫 19-2)
作者 ハリイ・ケメルマン
価格 672 円
出版社名 早川書房
出版年月 1976/07
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■読者の評価     おすすめ度平均

《推理連鎖》ものの嚆矢       おすすめ度
◆「九マイルは遠すぎる」

 ▼あらすじ

  ニッキィ・ウェルト教授は、友人が思いつきで述べた言葉、


     「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない、まして雨の中となるとなおさらだ」


  をもとに推論を展開し、言葉の奥に隠されていた意外な事件を明らかにする。



 ▼感想

  いわゆる《推理連鎖》ものの嚆矢。
  著者は、本作の構想を練るのに十四年かけ、執筆は一日で終えたそうです。


  ミステリの新しい「型」を創出したという点で、本作の達成はじつに偉大。
  しかし、読者に必要十分な手掛かりを提示しないのは大きな瑕と言わざるを得ません。

  特に、適当に述べていたはずの友人の言葉が、じつはそうでなかったことを
  結末近くになって明かす展開は、アンフェアの謗りを免れないと思います。



◆「エンド・プレイ」

  マクナルティ教授が自宅の玄関で射殺された。

  当初、彼と揉めていた学生の犯行かと考えられたが、遺体に
  パラフィン・テストを施した結果、火薬(硝酸塩)が検出され、
  自殺の線が濃厚となる。

  果たして、彼は本当に自殺したのか?


  教授が死の直前まで友人とやっていたというチェスの盤面や駒の不自然さから
  真相を導き出していく手つきや、一見「捨て駒」扱いのレッド・へリングに皮肉な
  役割を担わせる技巧がじつに秀逸です。


久しぶりに読んだ本格もの       おすすめ度
 ミステリーのレビューというのは書きにくい。面白かったことだけは事実だ。読んだきっかけは恩田陸氏の「象と耳鳴り」(だったと思う)に本格ものとして取り上げられていて興味を持ったからだが、確かに久々に読んだ本格ミステリーだった。ほかの作品も読んでみたいと思わせる出来。


論理といえば       おすすめ度
論理といえばエラリー・クイーンだろうが、この本に出てくるニッキィ・ウェルト教授も素晴らしい論証をする。
ミステリを読んでいて「こんなこと考えつきそうにないな」という推論をたてる探偵はよくいるが、ニッキィは違う。とても明晰な分析能力をもち、言っていることが頭の中で情景として入ってくる。
物的証拠や、一連の言葉から導かれる結論で推理するから、どうしてそんなことが思いついたのかを説明せず、一足飛びに真相を言い当てるような奇妙な探偵よりも自然な感じがする。
だから、トリックやプロットよりも論理を重視するんだという方にはお勧め。


安楽椅子探偵ものといえば       おすすめ度
 安楽椅子探偵ものの短編集で、8編収録されています。表題作は最も有名な安楽椅子探偵ものと言っても過言ではない作品です。「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない、まして雨の中となるとなおさらだ」という言葉だけで、ある事件の存在を見抜くという短編です。その論理はちょっと飛躍しすぎじゃないかと思ったりもしますが、想像力はなかなか逞しいです。これ以外の作品はちゃんとした事件で、論理も飛躍せず、かなり面白い部類に入ります。全ての収録作品が安楽椅子探偵ものではありませんが、探偵役はみなニッキイ・ウェルト教授。チェスを嗜み、どことなく話し相手を子供扱いにする人です。


定番作品       おすすめ度
アームチェア・ディテクティブ・ストーリーの定番として、
ミステリに興味のある人間なら大抵は知っている作品。
探偵役本人は事件現場に居合わせず、赴きもせず、
人から聞いた情報だけで推理をおこなう。
表題作を例に挙げれば、
英語にしてたった十一語のセンテンス
「九マイルは遠すぎる、ましてや雨の中ともなれば」

から、可能な限りの推論を引き出すのである。

同じ手法の作品は数あれど、『定番』も良い物だからこそ『定番』たりうる。
一度読めば、その独特の推理ゲームのとりこになることは間違いない。