聖水
作者 青来 有一
価格 1,400 円
出版社名 文藝春秋
出版年月 2001/02
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    第124回 芥川賞   受賞
「聖水」は本当に奇蹟の水なのか。佐我里さんは教祖か、詐欺師か?死を目前に衰弱しながらも、聖水の効用を信じ続ける父と、佐我里さんの商法に反発を覚える息子。スーパーの経営権を巡る騒動と、新興宗教の様相をおびる聖水信仰。死にゆく者にとっての救済とは何かを問う。

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■読者の評価     おすすめ度平均

納得の芥川賞受賞。       おすすめ度
 静謐さの中に、凛冽と煌めく文体。最期の父の「死」の場面。オラショ=隠れキリスタンの賛美歌の合唱には、鬼気迫るものを感じた清凄なまでの崇高さが感じられうる場面であった。


記憶の糸を繰る       おすすめ度
 写実的な文です。山奥の町の夏が、陰と光の強いコントラストを基調に描きこまれています。この作品には、常に森の存在感があります。梢からこぼれる光と、蒸発する土中の水分。読んでいる最中に喉が乾いてくるような感触さえ覚えます。その森の重量感を贅沢にも背景に追いやっておき、作品は人心の交錯を描きます。背景の写生的表現に比して人間模様の描写は簡素なものです。そうでありながら、生身の人間の、貼り付くような質感を再現する作者の手さばきは見事です。忘れられた信仰。その記憶の糸を繰りながら、澄み、また濁っていく人の「生」。そのよどみにあって目を凝らせば、伝承の生まれた「森」にもう一度帰るーそんな読後感を覚えます。

 この作品の主題の一つには人の生身の「生」があると思います。一度もそれを言葉にすることなく、そのかがやきと不気味さを同時に飲みこんでいる本作品を前に、読者である私にできるのはただ佇むことのみです。



盛夏の空気       おすすめ度
諫早湾をとりまく4つの話が、淡々と綴られる。時折現れる、装丁写真とは対極の澱むような物質の描写が、かえって心の美しさ、静かな悲しさ、清々しさを自然に際立たせる。遠藤周作の「沈黙」読後に感じた不安と安堵の混交が自然とよみがえってくるが、それはキリシタン迫害の歴史を共通項にしてのことだけではないだろう。皮相的/模範的な宗教性と距離をおきながら、信頼と裏切り、心の翳り、そういった根源的テーマに深く沈んでゆく、不安定でアグノスティックな視界ゆえではないかと思う。情緒感動をむやみにくすぐる、「売れ筋」類の小説に倦んだ方に奨めたい。


名手の登場       おすすめ度
手際良い枝葉の剪定。作者の技を例えるならこうなるだろう。原木の取り入れ先は、長崎を中心とする九州地方。毎年夏にやってくる不思議な叔父、中学時代の友人とその父を巡る怖い事件の想い出、映画のエキストラ出演したときの奇妙な体験、死を迎える父を取り巻く人々のどことなく自分勝手な人間模様、という多様な素材が、取り込まれた様々な要素ともども剪定を経ながら、小宇宙を形成している。全編を図式的に言えば、まず中心に社会からやや外れてしまったところにいる人(達)がいて、傍観者的語り手がいる。そして彼らを取り巻いている人達は、てんでばらばら勝手な方を向いている。この遠心力と求心力のバランスが絶妙。私は「泥沼の兄弟」が一番好きだ。でも、一番読むテンポが速まったのは、「聖水!」の父の死が目の前に迫った部分。読み終わったあと読者は、早くも、この作者が次に剪定するのはどんな素材か、楽しみに待つことになるであろう。