蝶
作者 皆川 博子
価格 1,500 円
出版社名 文藝春秋
出版年月 2005/12
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■読者の評価     おすすめ度平均

忘れがたい物語集       おすすめ度
凄まじい短編集だ。もうこの一語に尽きる。薄くてすぐに読めてしまう本なのに、世界が変わり確実に自分の中に重くずっしりしたものが沈殿していくのがわかった。本書に収められている短編は、すべて詩句にインスパイアされている。もともとぼくは詩句には疎いほうで詩集や句集などは読んだことがないのだが、ここで取り上げられている詩句を読むかぎり、どうしてこのジャンルをもっと探求しなかったのかと歯噛みしたくなった。それほどに皆川博子の取り上げる詩句の世界は魅力的なのだ。本書を読んで、まず憧れが胸中を占め、詩句の世界に遊ぶ新鮮さを味わい、そして作者のつくりだす甘美で残酷な世界にしびれた。すべて舞台は日本である。それも一昔前、先の大戦前後の時代の話である。日本が世界から孤立し、狂気にまみれ熱く沸騰した時代。だが、ここで描かれるのは戦争ではない。戦争に翻弄される人々は出てくるが、戦争そのものにたいする記述はほとんどない。かわりに本書には、この時代に日本に根付いていた負の風潮が数多く出てくる。復員兵、戦争孤児、妾、男尊女卑、結核。そこに作者は美しさと、いい匂いと、残酷で清らかな詩句をおりまぜ、この上なくなめらかな文章でもって忘れがたい物語を紡いでいくのである。特に最後の三篇のインパクトは素晴らしい。夢に見そうなくらいだ。


密度の濃い美しい文章とあやかしの世界       おすすめ度
この本は「空の色さえ」他7編のあやかしの作品からなる短編集です。
この本に限らず、皆川さんの全作品にいえるのは、江戸末期から明治に続く闇の気配が色濃く、ここかしこにあらわれているということです。
それはおどろおどろしくもあり、淫猥でもあり、また矛盾するようですが、近未来的シュールリアリズムでさえあります。
前者は「谷崎潤一郎の刺青」の系譜であり後者は「川端康成の片腕」であるように思えます。
この2人の作家に共通するのは、大教養人ということです。彼等はその教養の深さから明治大正の空気を構築し披露してくれました。
あるいはジンタの流れる雑多な町並みや見世物小屋、淫靡なものを偲ばせてくれました。

皆川博子さんはまさにそれらをうけついでいる人といえます。
当然、彼女の教養の深さは現代作家の中でも群をぬいているといえます。

7編に共とも、生きていくのにどうしようもない不幸を背負っている人間の生き様が、幻視・異界をあやなしながら、密度の濃い美しい文章で描き出されています。それは旧い蔵の奥にしまってある淫靡な錦絵や、またあるものは地獄絵のようひっそりと、しかしめらめらと赤い炎ふきながら存在するようです。
圧倒的な力ある作家、それが皆川博子さんといえます。
その系譜にあるのが 川上弘美 さんではないでしょうか。


夢幻の独特な世界       おすすめ度
皆川博子の作品は読んだことが無かったが、表丁の美しさと、短編集ということで、手にとってみた。詩歌を題材にとった短編はどれも読みやすく、過去と今とが交差する、夢幻の世界がそこには広がる。読んだ後、不思議な浮遊感に包まれながら、作者の他の作品も読んでみたいと思わせる、この本はそんな本であった。