羊の目
作者 伊集院 静
価格 1,750 円
出版社名 文藝春秋
出版年月 2008/02
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■読者の評価     おすすめ度平均

壮大なドラマなのに…       おすすめ度
一人の侠客神崎武美の壮絶な人生を描いた長編小説。彼の行動の根底にあるのは自分を育ててくれた「父」への忠誠である。実際にはその「父」辰三は、自分のみを守るために武美を見放したり、売ったりするのだが、武美の人生は辰三への恩義が全ての人生なのである。
夜鷹の母が武美を産み落とし、辰三に託すまでの冒頭の短編「牡丹の女」は人物描写も繊細で、今後の展開を期待させる傑作なのだが、そこから先は、どうも作者の筆があらすじをなぞらえるばかりで、表現も直接的で乏しい。もっと丁寧に丁寧に描いていけば、読み応えのある大作になったと思うのに、残念。


もう少し説得力があれば、       おすすめ度
昭和初期に生まれたある男の一生を、生い立ちに関わる周りの人物から語り、徐々に主人公に移っていくのです。ヤクザの世界に身を置く主人公に、とても胆(タンとかキモとか、つまり度胸のある)のある男の。

物語は連作短編の形で、それぞれの章にそれぞれ主人公に近しい人物の主観で、いかに主人公が凄い男かを表現していきます。物語としては、それなりに楽しめました。が、どちらかというと、不満が残りました。

物語の流れとしては、かなり長く、広く、それなりの世界観があるのです。また描写も、新しくはありませんし、斬新でも、特徴あるわけでもありませんが、悪くもありません、とても読みやすいです。どうしても気になってしまうのが人物描写、人物の心理描写、さらに、そこに2重構造を使う事なのです。

たとえば、如何に凄いか?を表現するのに、出来事や、それを通しての心理描写なりを使い、読者が想像し、ある程度感情移入できたり、できなくても理解でき、また魅力あるキャラクターであるなら良いのですが、ちょっと直接的過ぎる表現なのです。如何に凄いか?=凄いから、凄い。という説明になっちゃっている部分を私個人は多く感じました。何だか「この登場人物はアレをアレするためのキャラクターなんだろうなー」が分かり安すぎるので、どうしても薄っぺらく感じてしまうのです。

その上、2重構造、そんな割合薄っぺらく感じてしまいやすい人物を使って、主人公の心理描写や人間性を浮き彫りにしようとすると、どうしてもちょっとわざとらしく感じてしまいます。主人公の周りを固める、幼少期の兄的存在、親分、刺客、逃亡先で知り合う娘、どれもこれもが、主人公を凄く見せるための行動をとってくれる、勝手に恐れ入ってしまっている様に写るのです。行動に説得力が、どうしてそこまでなのか?が私にはちょっと。


と、文句もあるのですが、作品として、もう少しキャラクターが上手く動いて、伏線も張れているなら、題材としては面白いとも思うのです。義理と暴力とヤクザの世界の男と、宗教的救いの交差。もう少し登場人物に魅力があったり、説得力があれば(私には)よかったのですが。ちょっと余韻も足りなく感じましたが、特に村上 龍さんの小説が好きな方にはオススメできるかもしれません。


浅草観音は何を語る?       おすすめ度
本書の形式は、一見短編集の様に見えるが、物語は連続していて、一冊で一つの長編を成す。
主人公の出生そのものも壮絶であるが、その後の、裏社会での生き様も、壮絶極まりない。

物語は、重く、そして、寂しい。
復讐という、裏社会の掟が、主人公を徹底的に支配する。
この様な、掟そのものが、そこはかとなく寂しい。

しかしそれは、主人公が選んだ道ではない。
むしろ、夜鷹である母が、一定の願いを込めて、ある選択をした。
そして、その結果が、本書の展開を導いた。

東京、浅草寺の観音様が、主人公と対峙する場面がある。
夜鷹だった母が、観音様の姿を借りて、何かを語りかけている様にも思える。

表題が意味する事は、少々深い。
どっしりと重い読み応えの本書は、様々な事を語る。

読後には、複雑な余韻が、交錯する。


伊集院版ゴルゴ13       おすすめ度
帯には「神とは、救いとは、伊集院文学の最高峰」となっているが、どうもそんな感じはしない。戦前に夜鷹に生み捨てられた主人公が、従軍して、網走とアメリカで懲役。バブル期の日本にやっと戻ってきて、長崎の離島で礼拝堂造り。いったい、何歳なんだろうか?東映映画の高倉健かゴルゴ13のような年齢不詳さ・・・。神、救いといったところも遠藤周作のような深さがない。やはり、伊集院の最高傑作は「でく」だと思う。


親のために       おすすめ度
昭和8年。夜鷹が産んだ一人の男児、神崎武美。
彼は浅草の侠客、浜嶋辰三の下で育てられ、
次第に日本の裏社会を代表する存在となっていく。

親のために身体を張る。
親が誰かに狙われたりしたら、その相手を殺る。
任侠の世界の掟を小さい頃に教えられた武美は、
この教えに背くことなく生きていく。

裏切りを含めた、様々な辛い出来事にも遭遇するのだが、
掟を守るという武美の軸はブレることがなく、
彼は常に親のことを第一に考え、太く、大きくなっていく。
ただ、決して曲げない信念を持った強い男でありながら、
孤独や悲哀といった寂寥感も、この男からは感じ取ることが出来る。
そして優しさも。

刑務所内やアメリカに舞台を移した話も盛り込まれ、楽しめる。
文章も読みやすい。