小泉政権―非情の歳月 (文春文庫)
作者 佐野 眞一
価格 620 円
出版社名 文藝春秋
出版年月 2006/08
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■読者の評価     おすすめ度平均

異形の小泉政権の本質       おすすめ度
小泉内閣に寄り添った人々(飯島勲秘書官、田中真紀子元外相、実姉小泉信子、元義兄)の観察を通じて、小泉政権の本質を浮き彫りにしようとする。
特に、飯島秘書官と小泉信子については、素顔を知るものが少なく、本書の価値の大半はその2人のレポートにある。
田中真紀子の研究や、著者の小泉純一郎観、小泉政治批判などについては、特段目新しいものではないが、本書全体のメッセージは強い説得力を持っている。
著者は政治評論家や政治記者ではなく、人間そのものを追いかけてきたノンフィクション作家。著者が「カリスマ」「巨怪伝」「東電OL殺人事件」などで執拗に論じてきたのは、裕福さや周囲の人々の合理的な説得では動かしがたい、人間の尽きない情念だろう。深い怨念と言ってもいいかもしれない。
凡人から見たら理解しがたい突飛な行動が、何を原動力としているのか、そこには事実を集めるノンフィクション作家の地道な取材と、人間の業を凝視する文学者としての人間観がともに必要で、著者はその困難を切り開こうとしている。
政治家の秘書官としてあらゆる意味で型破りな飯島の出自は特異だ。
家族の人数分も傘を買えない極貧の中、寝たきりの母、知的障害を持つ兄弟姉妹を置いて上京し、賢明の努力で小泉を総理にし、小泉のマスコミ対策を独力で取り仕切った。安倍晋三も、飯島のような秘書官がいればと評論家は言うが、それを期待する危険性も本書から読み取れる。
飯島の章について分量はさほど多くないものの、飯島の押し出しの強さ、アクの強さの原点に迫った、迫力のレポートだ。
何よりも怖いのが、小泉、信子、飯島という、あらゆる意味で普通の人間的なコミュニケーションから隔絶された場所で、政権が運営されていた、ということだ。小泉政権も、戦後政治の進化どころか、一つの激しい政権闘争の一形態でしかないという黙示録的な事実を、本書は突きつけている。


この後味の悪さは、あまりにも奥深さを感じさせなかった小泉政権の隠されたテイストなのかもしれない       おすすめ度
『小泉純一郎 血脈の王朝』を文庫化にともない改題した作品。なんで、こんな風に改題するのか、商業的理由以外は思いつきません。二度買いさせるつもりでしょうか。ちょっと版元の良心を疑いますね。内容も小泉政権を問題にしたというよりも、小泉首相をとりまく飯島秘書官、田中真紀子衆議院議員、実姉の小泉信子さんという三人に焦点を当て、そこから逆に小泉純一郎個人の輪郭を浮かび上がらせようというものだし。

 それはさておき、その手法そのものも成功しているとは思えません。実際にインタビューに成功したのは飯島秘書官だけだし。文藝春秋に最初に連載されたその回は、姉二人と弟一人が智恵遅れで本人も強制的に集団就職に出されるなど「狂い死にしてもおかしくない境遇と背中合わせの世界から這いあがってきた者」として描きます。したたかな飯島秘書官は、その回の文章のコピーを朝鮮総連に配って小泉訪朝につなげていったというのですから凄いんですが、小泉信子さんは自身の回に激怒、ますますマスコミから遠ざかったといいます。

 確かに、小泉信子さんの回は、姉の結婚の失敗(小泉首相の元義兄は窃盗の常習犯となっており、入出獄を繰り返していた)などを執拗に追ったもので、後味は確かに良くありません。


すべて事実なら凄いです       おすすめ度
この文庫は第1章の飯島勲と第3章の小泉信子に価値があると思う。
政治家の近辺の人物には名誉毀損などの危険もあり
切り込めないものです。
飯島氏の経歴は本人にとって負の情報も多く
文庫化するのは大変なことだと思いました。
長期化した小泉政権には凄まじいまでの
異形の結束があることを学びました。


多少突っ込み不足の感はあるが、実に佐野真一らしい「小泉政権論」である。       おすすめ度
佐野眞一は政治評論家でも政治記者でもない。その人物を突き動かしたものは何か、合理的には説明のつかないような何か、ということを膨大な資料や執拗な取材で突き止め、その人物を描き出そうとするノンフィクション作家である。

よって、本書も小泉政権の政策の功罪を細かく問うものではなく、著者が「異形の者」と呼ぶ、小泉政権の中心にいる(いた)人物3名(飯島秘書官、田中真紀子、姉の小泉信子)のレポートを通じて描かれる、人間観察の視点からなされた「小泉政権論」である。

著者の、小泉純一郎観や小泉政権への批判、田中真紀子のレポートに関しては特に目新しいものではないが、人間観察からなされる「小泉政権論」は実に佐野真一らしい。そして、かなり説得力がある。

著者は、当時現職だった故小渕総理大臣を描いた評伝「凡宰伝」の中で、記者クラブに属さない雑誌媒体での現職総理代全への単独インタビューはきわめて異例のことである、と記している。そして、それに成功した著者と文藝春秋社への風当たりは非常に強かった、とも記している。

だから、本書においては、はじめから小泉へのインタビューを抜きにして、小泉政権の本質へ迫ろうとしたのか、あるいは最初は彼を含めた4名を計画していたが、それを断られたのかはわからない。ただ、結果的に彼そして小泉信子のインタビューがないということが、独裁的とも言える小泉政権あるいは孤独な小泉自身の本質を際立たせることとなっているのは間違いないだろう。

本書は‘04年11月に発売された「小泉純一郎 血脈の王朝」を加筆して文庫化したものである。加筆部分には、単行本でその消息が不明だった小泉の(元)義兄、竹本公輔本人に対する取材も行われている。

実現は難しいかもしれないが、著者による小泉純一郎の「評伝」を是非読んでみたいものである。