バルタザールの遍歴 (文春文庫)
作者 佐藤 亜紀
価格 630 円
出版社名 文藝春秋
出版年月 2001/06
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    第3回 日本ファンタジーノベル大賞   受賞
「私の筆跡にやや乱れが見えるとしたら、それはバルタザールが左手で飲み、私が右手で書いているからだ」一つの肉体に共棲する双子、メルヒオールとバルタザール。高まるナチスの軍靴の音と爛熟を極める欧州文化の中、誘うように開かれる転落への道を、彼らは滅びゆく誇りを抱え彷徨い続ける。緻密な構成と優美な文体で鮮烈なデビューを遂げた第三回ファンタジーノベル大賞受賞作。

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■読者の評価     おすすめ度平均

純文学とエンターテイメントの幸福な結婚または二人羽織り的漫才       おすすめ度
「ひとつの体を共有する双子の華麗なる遍歴」とストーリーを聞いてパリの貴族の家に生まれたシャム双生児の話だと思ってたんですが違いました。でも例の浴槽ドボンまで「バルタザールの正体って実は人面瘡?」と疑ってた馬鹿な私。

この物語はメルヒオールの手記という形で幕を開けるのだが、作中に挿入されるバルタザールの反論というか突っ込みというか、それがとてもいい味出していて面白い。
メルヒオールの言い分に「そうじゃない」「誤解だ」「なんてことだ、まだあの時の事を根に持ってるのか?」と合いの手を入れるバルタザール、なんたって同じ体を共有してるからその気になればむりやり手を乗っ取って訂正を挟む事が出来る。
げに便利な二人羽織り漫才にくすっと笑ってしまう。

とても流麗で端正な文体なのだが、本書の魅力はそのエスプリとユーモアにあると思う。
兄弟がシュトルツに注ぐ意地悪な視線、女にふられてやけくそになった挙句の放蕩三昧の日々、初めて駱駝に乗ったときの公爵にあるまじきはしゃぎっぷり、金髪のエックハルトの愛すべき小悪党ぶり……
文体の格調高さにもかかわらず、それらの描写が非常にツボを得ていて小気味いい。

「ぺぺと名前までつけていたのに!」と駱駝の誘拐を本気で口惜しがるさまに噴き出さずにいられようか。いや、無理。

そんなに難しく考えなくても一度このユーモアがツボに入ればすらすら読めるので心配なし。
続編とかでないかなあ。
坂道を転がり落ちるような凋落の一途さえいっそ清清しい二人のそれからが読みたい。


濃密な物語と軽快な筆致。これがデビュー作とは驚き       おすすめ度
 何と濃密な物語。
 舞台設定と主人公の設定だけでも勝ったも同然だというのに、それを勝ち誇る事もせず、軽快な筆致で軽やかに書いているのが凄い。
 この内容なら、幾らでもその事を描写と説明に頁が膨らんでしまうところを、そっけないぐらい説明を少なく、
さらに後の展開をさらっと書くので、否が応でも先の展開が気になってしまう。
 そのくせ、実際にその事を描写する段では、前に描写した事については触れないという始末。
しれっと伏線を回収する手際といい、これがデビュー作とは恐れ入ります。

 最後の方に、ある人物による一人語りで、一気に説明してしまうのはちと気になったものの、それはまあご愛敬。
 物語を上手くまとめて、余韻を残した終わり方で締める手際もお見事。
 読書好きにこそ、オススメの一冊です。


「バルダザールの遍歴」と邂逅       おすすめ度
何といっても遍歴というタイトルである。
作者と作品は違う全く別物というテキスト主義の立場からみても、佐藤亜紀の身辺は小説以上におもしろそう。でも、いろいろあっても、こんなおもしろい小説を書くのだから、佐藤亜紀の周りのスキャンダラスなことは二の次でしょう。100年たったらテキストしか残らない。まずおもしろい。完成度は特筆すべき。読むべし! 読了後、ウィーンに行く機会があり、ベルベデーレ宮殿で思いがけず「3人のマギ:カスパール、メルヒオール、バルダザール」を描いた絵画をみた。暗い部屋に30cm四方くらいの大きさであったろうか。忘れられぬ邂逅。
http://ivanisevic.ti-da.net/


期待しすぎた       おすすめ度
評判を見るかぎり完璧に面白い小説ということで、書店で手にとって読んでみた。
たしかに、グイグイと引き込まれる。夢中になってページを捲った。
ただ、この作品はサスペンスでもSFでもない。
私のように何か「鮮やかな大仕掛け」を期待して読むと後味の悪さが残る。
どんでん返し、意外な真実、そういうものは無いと思ったほうがいい。
所詮素人の私が理解できる小説ではなかったのが残念。


考え抜かれたファンタジー       おすすめ度
毀誉褒貶の激しい著者ではあるが、そういった周辺の評判に振り回されるよりは、まずはこのデビュー作を手にとって読んで欲しい。輝かしい才能がここにはある。

ひとつの肉体に2つの精神、という設定がまず素晴らしい。表層を見せることなくいきなり形而上に至れる文学という技法ならではの巧みな設定である。キャラクターの描き分け、物語構成も鮮やかで、どこにも隙がなさ過ぎるのが欠点、としか言えないぐらい完成度が高い。寡作になってしまったが、その後の著作でも決してクオリティは落ちていないのではないだろうか。新作が待たれる。