脳病院へまゐります。 (文春文庫)
作者 若合 春侑
価格 480 円
出版社名 文芸春秋
出版年月 2003/07
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■読者の評価     おすすめ度平均

どうしようもなさ。       おすすめ度
表紙の写真と、タイトルに魅かれて購入しました。

「おまへさま、まうやめませう、私達。」
という言葉で始まる表題作。
旧仮名遣いの美しさ、セピアがかった雰囲気は、好きです。
中でも、芸術について、過去と人格形成について、切ない解釈、表現が良かったです。
人が人に魅かれるということの、どうしようもなさが切々と書き綴られてゆきます。
その内容には正直、激しい反発と許しがたさを感じます。しかし、この反発が、
そのまま主人公と私は違うのだということ、どうしようもなく、人は一人なのだ
という事実を突きつけているように思います。

 そうして、この作品の最期には、冒頭の言葉を読み間違えていた自分に突き当たるのです。
作者が女性だということと、あわせて驚かされました。


生々しさ       おすすめ度
まず旧仮名遣いで書かれている本書がかもしだす雰囲気は、なんとも言えない息苦しさを覚える。表題作は文學界新人賞受賞作なので長くはないはずなのだが、旧仮名遣いの読みづらさも手伝ってか長く感じられた。
旧仮名遣いが悪いような言い方になってしまったが、この旧仮名遣いは小説に非常に良い効果をもたらしている。帰依と言っても良いほどの女の行動と旧仮名遣いの息苦しさが合わさり、肺に生ぬるい粘着質の液体を流し込まれたような圧迫感が生まれるのだ。情痴という言葉では表すことの出来ないなにかが、この小説にはあると思う。ただ、好き嫌いはわかれると思う。


これは何。       おすすめ度
決して全面的には好きな作品ではないのですが、初読から一年半を経過して、奇妙に記憶に残る作品なのでここに記しておきたいと思います。昭和初期、カフェの女給をしていた人妻でもある女が、谷崎を敬愛する帝大生と出会い男女の仲になるのですが、男の閨房での辱めは想像を絶し、それでも相手を愛する女にとって・・・。という類のかなり壮絶な作品なのですが、記憶に残るのはその壮絶な描写ではなく、この作品が醸し残したある種の気品。あるいは、高み。です。壮絶極まり過ぎるほどに徹底的な性的恥辱暴力描写で、エロティシズムの美学とか、官能の美学などと呼ぶべきものなど微塵もないほどに排除されたこの作品が放ち残す異様なノーブル感(?)。これはいったい何なのでしょう。


おど゛゛゛゛ろき!!       おすすめ度
完全に受け身になるということで、何か魂の根元を探し求めているような、魂の入った器である人間と、もう一つの人間の繋がりの根本に触れようとするような、そんな感じがしました。

 単なるサド・マゾの話とは思えず、動物に成り下がったようにも思えず、完全に相手を受け入れ、性を通して、生を知ろうとする、精神の在処を知ろうとする、そういう態度に思えます。
 あと昔、蛙や虫をいじくって遊んだ時のことを思い出したりもしました。これは相手の男の心情と同じじゃないかなぁ。 奇妙にヒステリックになる…。



これが情痴文学?       おすすめ度
愛情表現が想像を絶するものであっても、相手を愛する気持ちに根本的な違いは無いのです。「サディスト」「辱め」「情痴」など、ただの官能小説を思わせる解説には割り切れないものがあります。「おまへさま」の変態ぶりも、それを受け入れる「私」の葛藤も純愛小説の一情景として切ない気持ちで一杯になってしまいます。

収録されている「カタカナ三十九字の遺書」も、常人には理解できない愛情も当人にとっては何物にも変えられないという、もう一つの表現ではないでしょうか。