猿丸幻視行 (講談社文庫)
作者 井沢 元彦
価格 650 円
出版社名 講談社
出版年月 1983/01
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    第26回 江戸川乱歩賞   受賞
猿丸大夫、百人一首にも登場するこの伝説の歌人の正体は?“いろは歌”にかくされた千年の秘密とは……。眼前に展開した友人の悲劇的な死のなぞを解き明かす若き日の折口信夫の前に、意外な事実が次々に姿を現わしていく。暗号推理の楽しさも満喫させるスリリングな長編伝奇ミステリー。

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■読者の評価     おすすめ度平均

面白い所取り       おすすめ度
80年の江戸川乱歩賞受賞作。ジャンルは歴史ミステリーであり、SF冒険小説でありと、まあ探偵小説の面白い所いいとこ取りな作品。人が知的好奇心を満足させられる「謎々推理」と「歴史」という、大衆小説のジャンルの不動の二大人気要素が交じり合っているのだから面白く無い訳が無い。推理小説と歴史小説に追随するこれまた人気大衆ジャンルのSFも含まれている。タイムトラベルSFじみた所などは、まるで「ふりだしに戻る」みたいだ。作者自ら、「水底の歌」と「いろは歌の謎」に依ると書いているし、末尾に紹介されている既存の参考文献の数々を作者が自分なりに取り出して組み立てなおした、まさに日本人的、博物学的な良作。この辺り、小説家や歴史研究家というよりは博物学者的であり、荒俣氏にどちらかと言うと近いですね。前述の「水底」や「いろは歌」の矛盾点などを自分の作品の構成要素に使ったりと上手さが目立つ。小説なので、人名はもちろん、地名や由縁を捏造したりと多少の事は勝手ですからね。暗号の部分はちょっと無理矢理すぎる嫌いがある、少し前に流行した「聖書」の暗号だとか、果ては文学小説に適用しても成り立つと、まあ半分いかさまみたいな物であったが、そこまで言わないまでも、全音を使う「いろは歌」だからどんな言葉でも作れるわなとも思う。でもそれなりに形になっている所は凄いというべきか。一番感心する所は折口信夫を主人公にした所でしょうか。実際伝わっている彼の性癖や対人関係も上手く表現しているし、その辺りは後書きを書いている中島河太郎氏の言葉に詳しい。折口信夫の思想の部分も作者にとってはこの作品を作る上でのはまり役となったのであろう。作者の様々な要素を無理矢理に組み立てて面白くするという能力がこれ以上ない位発揮されている作品。


折口信夫が探偵とは!       おすすめ度
 この本のおかげで 日本書紀を読むきっかけを得た。その意味でも非常に感謝している。

 題材自体は梅原猛の「水底の歌」から持ってきている点で難が付けられている面もあるが 両方を読み比べてみても 小説としての本書の価値は減じないと思う。

 まず 探偵として折口信夫を起用した点に作者の独創性がある。折口は歌人であり民俗学者であり 国学者であるという極めてユニークな方だったが そんな彼に探偵をやらせるという着想には舌を巻くものがある。

 次に他の登場人物も上手い。金田一京助や 南方熊楠の登場も楽しいし それなりにリアリティーがある点が素晴らしい。

 再読に足る探偵小説というのは 中々無い。本書は僕にとって数少ない そんな本である。

 
 


第26回江戸川乱歩賞受賞作品       おすすめ度
 梅原猛の著作「水底の歌-柿本人磨呂論」で有名になった猿丸太夫=柿本人麻呂同一人物説。そんな歴史ミステリーに民俗学者折口信夫がその難問を解決する。

 題材設定ともに面白い。途中、難解な暗号解読に飽きてしまいそうになるが我慢して後半へ行ってください。

 読んで損はない作品です。


これが独自のアイデアだったら...       おすすめ度
歴代乱歩賞中の最高傑作。ただし、梅原猛氏の「水底の歌(柿本人麻呂論)」及び篠原央憲氏の「いろは歌の謎」の両書がなかったらの話である。

折口信夫を主人公にするというアイデア、百人一首中の歌の暗号の鍵を「いろは歌」の謎に求める手段、猿丸太夫が歌人集団だったという説、そして柿本人麻呂の官位と死の謎等々、読者の興味を惹く話題は全て冒頭の両書からの借り物である。作者自身で考えたと思われる末尾の殺人事件は全く平凡で詰まらない。作者がこの後ミステリ作家を諦め、歴史ライターの道に転進したのは正解だったろう。

しかし、この両書の存在を無かったことにすると途轍もなく面白いのである。実は、本書をキッカケに私は梅原猛氏の諸作品を読むようになった程である。この点、作者は元々創造が得意と言うより、興味をそそる諸要素を巧みに組み立てあげるルポ・ライターの素養があったのだと思う。両書の存在を無視すると乱歩賞史上最高傑作というだけでなく、日本ミステリ史上に残る傑作歴史ミステリ。


歴史ミステリーの嚆矢       おすすめ度
「1000年間ある一族に伝わってきた暗号。そしてその暗号には歴史を根本からひっくり返すような謎が隠されている。」
これがこの小説の基本プロットなのだが、これは世界的に大ヒットした「ダ・ヴィンチ・コード」にそっくりである。
また、膨大な薀蓄が語られているところもよく似ている。

この作品は暗号解読を中心とした歴史ミステリーの嚆矢といってもいいだろう。
謎の人物は、伝説の歌人・猿丸大夫。
謎を解く鍵は暗号化された和歌に隠されており、その謎に若き日の折口信夫が挑戦する話だ。
話としては単純なのだが、暗号である和歌および古代史に関する薀蓄がもの凄い。
よくぞここまで綿密に調査し、娯楽小説として構築したものだと脱帽するしかない。

だが、本書を娯楽として楽しむには、基本前提として、和歌・古代史に関する最低限の知識が必要だろう。
何度も説明を読み返さないと暗号解読の経緯がわからなくなる。
正直、和歌に関する知識の薄い私には難解過ぎた感はある。

しかし、非読書家層に迎合した「大きな活字」「簡単なプロット」「平易な表現」で書かれた「誰にでも読める娯楽小説」が氾濫している現状に辟易している私としては、このような読み応え十分の作品は歓迎したい。
読書とは知的娯楽なのだという事を再認識させられた。