月の扉 (光文社文庫)
作者 石持 浅海
価格 620 円
出版社名 光文社
出版年月 2006/04/12
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■読者の評価     おすすめ度平均

独創性はバッチリ!!       おすすめ度
とても独創性のある設定で、
読み始めたらページをめくる手がやまなくなってしまった。
徹夜必至のミステリーである。

にもかかわらず読後の空虚感は否めなかった。
また動機にしても少しこじつけすぎかなぁとは思ったが、
おそらくこういうこともありうるのだろう。

あとひとひねりが欲しかったけれども、
全体のリズム感はとても良かった。


新興宗教的な話で個人的には好きではなかった       おすすめ度
飛行機の乗客で、事件に巻き込まれた座間味くんが印象的だった。死体を発見した女性の恋人で単なる一般人に過ぎない彼が、犯人グループから死体の謎を解くように要求され、次々と推理を展開していく。その推理によってハイジャック犯を動揺させる作戦、それに気付きながらも調査を続けさせる犯人、そのやりとりがとてもおもしろかった。ただ、ハイジャック犯の動機が傑出したカリスマによる再生の世界への誘導というファンタジックなところが、新興宗教的な話のようで個人的には好きではなかった。


稚気、愛すべし       おすすめ度
  〜ハイジャックされた旅客機のトイレで起きた密室殺人〜


本作には、さまざまな意匠が施されていますが、
あくまで、このハウダニットが核です。


本格ミステリの稚気を解さない「大人の」読者は、ハイジャック犯が
緊迫した状況下にあるにも関わらず、探偵役に抜擢した乗客とまったり
密室殺人の議論をすることに違和感を覚えたり、いかにもとって付けたような
カリスマ教育者の類型的な人物像にリアリティを感じないのかもしれません。


しかし、それらは本質的な問題ではないのです。

(カリスマ教育者の造形の浅さは、批評性を付与する
 ため、半ば確信犯であった可能性もあります。)


ある種のカルト的価値観を持つハイジャック犯とその関係者が、
旅客機という閉鎖空間に集まったことで招来された状況や事件を
あくまで論理的に推理し、細部まで議論しているところに、
本作の美点があるといえます。

そして、犯人が特異な価値観の持ち主だということを理解すれば、
ラストに至る流れも、ある程度、予想の及ぶ範囲のものであり、
密室殺人以外のホワイダニットは興味の中心とは言い難いのです。


ともあれ、処女作と同様、本作においても野心的に(クローズド・サークル)
の新機軸を打ち出してくる著者の姿勢には、頭が下がります。

これからも、美しいロジックを展開して欲しいです。
  


扉の向うを、知りたかったなぁ       おすすめ度
うん♪
これはおもしろかった。

宗教ではないのだが、
社会的に適応できない子どもたちを引き受け、
キャンプに行き、
彼らを回復させて、社会にもどす。
“師匠”と呼ばれる、
圧倒的なカリスマ性を持った男。
その男が、皆既月食の夜、
月の扉を開くと言う。
その月の扉の向うに行けば、
生きながらに別の世界へ行けるという。
ユートピアへ。
信じるものだけが行ける世界。
しかし、その約束の日を前に、
師匠は略取誘拐の容疑で逮捕されてしまう。
約束の日を迎えるために、
師匠奪還のために、
師匠を慕う者たちは、
ハイジャックを試みる・・・。

宗教チックな説得力が、
ちょっと卑怯かな、と思いつつ、
そのおかげで、最後まで興味を引っ張られた。
登場人物たちも魅力的で、
犯人とは思えない。
目的が、人を傷つけるのではないことが、
なんとなく同情心を生む。

二重、三重の、アクシデントも、
その解決への展開も、
なかなか秀逸。
そして、
エンディングも、とっても悲しくて、
なんだか、やられました。

惜しむらくは、
物語の重要なファクターである、
月の扉の向うの世界については、
作者が逃げたな、
と言うのが、僕の感想。
そこまでいけてたら、
まちがいなく、★5つだったなぁ。


一般向けではないのかも       おすすめ度
良くも悪くも、今日の「本格ミステリ」のありようを示す作品として、それなりに楽しく読んだので、他の方の評価が低いことに驚いた。
『生ける屍の死』(山口雅也)は、ありえない状況下での、ありえない事件を描いて、日本のミステリの新たな可能性を開拓した。
猫丸先輩シリーズ(倉知淳)は、素性のよくわからない素人探偵が“推論”を語るだけでも、ミステリ的興趣が生まれることを示した。
となれば、ありえない前提を踏まえた、ありえない状況下で、素性のよくわからない素人が推論を組み立てるだけでも、ミステリは成立し得ることを目指した“野心作”が、あっても良いことになる。
そうした意味づけで本作を読んだので、それなりの成功を収めていると思えた。
事件の関係者はあらかじめ限定されているのだから、フーダニットやハウダニットではなくホワイダニットが主眼であるのは明らか。
しかし、本来ありえない事柄が前提なのだから、本来ありえない動機が成立してしまう。
なるほど、と思える展開である。
本作がランキング本で高い評価を得たのは、ミステリを読みなれた者にとっては、こうした小説の存在が許せてしまうからであろう。
そういう意味では、一般向けではないのかもしれない。