無銭優雅
作者 山田 詠美
価格 1,470 円
出版社名 幻冬舎
出版年月 2007/01/31
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■読者の評価     おすすめ度平均

心中する前の日の心持ち       おすすめ度
「心中する前の日の心持ちで、これからつきあっていかないか?」

こんな会話で幕を開ける小説を、あなただったらどんな物語が繰り広げられると思います?
しかも作者は山田詠美。
私は正に「繰り広げられる」とも言うべき、
切った張ったの大恋愛物語が始まると思いましたよ。
でもその実態はのーてんきに生きる40代独身男女の脱力系恋愛小説。
はっきり言って新ジャンルです。

縁側でじゃれ合いながらつづる2人の会話が本当にバカバカしい。
でもとても素敵です。
何で素敵かというと、のーてんきに生きる才能をこの2人は美しく見せつけてくれる。
覚悟があると言ってもいいかも。
「恋愛は中央線でしろ。」
名言です。
のーてんきに生きられるのは自分を甘やかしてくれる人がいるからで、
甘やかしがいのある人がいるからである。
こういうことを気負いなく思うためには、
元からある才能を年月をかけて鍛えてこそたどり着けるのだと思う。
主人公が相手の男に好きな四字熟語を聞くシーンは特にスゴイ。
これはとてもじゃないけど私には言えません。
でも、こんなにぬくぬくとしたお話にもすっと刃物を入れてくるのが山田詠美の怖いところ。
バカ話のひとつが登場人物の悲しみを残酷に際だたせる。
やはり、能天気に生きるのは才能がいるのです。


せつなすぎる       おすすめ度
せつないです。なんだか、心臓をギュ〜っとつかまれた感じがします。

同年代なので、すごく共感できるところがあり、特にラストのほうは、リアルすぎて、最初に読んでから随分経ちますが、二度目以降、最後まで読むことができません。
だけど、大好きな本です。


良質のナルシスティックな恋愛小説、なのですが       おすすめ度
 40代の二人の男女の恋愛。ドラマチックな出来事はほとんど起こらない日常的な
二人の生活が女性の一人称で語られていきます。ベテラン作家らしくとても読みや
すい。そして、若者でない二人の物語だからこそ、ナルシズムがはっきりとしてい
ます。良質のナルシスティックな恋愛小説であるのは間違いないと思います。

 しかし、良質ではあってもナルシスティックである以上、とても狭い物語です。
世界観が狭いというより価値観が狭いと感じました。世界観が狭くても価値観が
広ければよかったのですが、そうではありせんでした。普通の小説家ならともかく
山田詠美という才能あるベテラン作家が、久し振りに書くべき長編小説とは到底
思えませんでした。読んでいても心になかなか響きませんでした。私にとっては
残念な作品となりました。


この一貫性!       おすすめ度
ここ最近、やはり山田詠美の時代は終わったのか、、と(勝手に)思ってました。
彼女の良さはデビュー作に代表されるような奔放でジューシーな恋愛物語かと・・。
そしておそらくはそのような恋愛からは一歩また一歩と作者自身が離れていくに従い、
作品は精彩を書いていくのではないかと思ってましたが。

しかし彼女は、やはりストイックな求道者でした。この本には真実しかないです。手抜きなし!
愛とは実用性に富んだものであるとの考えをみごとな手法で具体化させました。
恋愛だけでなく、家族愛、自己愛、すべての愛について彼女なりの解釈を余すところ無く体現させています。
若いころと比べ文体は非常にシェイプアップされ、もって回った言い回しも肩に力も入って無く、読んでいて気恥ずかしい感じはまったくなくなりました。
そしてあれほどまでに得意だった性的描写はかなり少なくなり、
代わりに食事や日常をシェアする様子が増えてます。
それらがしっかりと愛情を描写できると確信を持って書いているのでしょう。

怖い人です、本当に。最後の一文も、甘やかさのなかでそれを許さない厳しさ。
のん気で日常的な題材を扱いながら、愛の恐ろしさを余すところ無く書いてます。確信犯で意地悪です。


共感と反発が綯い交ぜになった複雑な読後感       おすすめ度
 「二人共、年を取りそこねてる感じがした。ちょっと、羨ましかった。この年齢で、現実に噛み付かれてないたたずまい保つのって、技がいるものね」
 うーん、この“年を食った少年”と“少女の心を持った妙齢”に対する肯定的な評価に戸惑う。まぁ経済原則一辺倒になっちゃった世知辛い世の中に対するカウンターとして、懐かしのモラトリアム、偽物の大人、中年セカイ系ってのはアリだと思うけど、ちょっとやり過ぎ!俺はこの小説の主人公たちと同い年なだけに、共感と反発が綯い交ぜになった複雑な読後感だ。女のほうはまだイイとして、この男、気持ち悪過ぎ!“情けなさ”をウリにしてるところがやだ。言葉遣いや態度の薄っぺらさとか。典型的な女たらしだよね(母性愛くすぐり系だから火野正平?インテリくずれだから太宰?古っー!!女にしかわかんない文脈っていうかさ)。作者は上段の位置から作中人物を造形してるわけだから、このやり過ぎな男女は意図的な訳だけど、それにしてもなぁ。これって、恋の渦中にいないと獲得できない客観性の剥脱状況ってゆーか。作者はベテランなので、一方でありがちな家族モデルを対置させていたりはする訳だけど。「自分の世界を大事にしないって美しい気がする。こだわり、なんてものを魅力のひとつと思っているその辺の男とは次元が違う」って女は言うんだけど、そんな男じゃないじゃんコイツ。オレオレ詐欺並みに騙されやすくないか?「私たちは、傲慢な日陰者である」って開き直ったら、やっぱ、かっこ悪いじゃん。
 あまりに、作者がわかりやすく書こうとして過剰になっちゃっている気がするんだな。
  全然瑣末な点でいいなと思ったのは、「一所懸命」ね。最近、みんな、いい年齢した大人まで「一生懸命」じゃん。意外にこうした些細なこだわりのほうに、共感しちゃいました。