エスピオナージ
作者 麻生 幾
価格 1,995 円
出版社名 幻冬舎
出版年月 2007/08
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■読者の評価     おすすめ度平均

納得の外事警察(スパイハンター)長編       おすすめ度
 小説の映画化で、原作以上に後を引く作品は、ほぼ皆無といっていいだろう。 による   漫画がアニメ化されて、声優の声が、自分で思い描いていたキャラクター像と一致しなかった時のように、スクリ−ンに向けてブーイングしたくなる映画化作品をいくつ見たことか。
 本作も、仮に読破に要する時間と同様の時間の長さの作品に仕上げたとしても、TR班とCR班のいがみ合う班長同士を含めた特命班の会議、尾行、そしてバンカケを含む捕り物の各シーンで、読者のはやる気持ちを鷲掴みにする描写を、日本人のどの役者が演じ、それをどうカメラワークで収めることができるのか?     役者の顔が思い浮かばぬほど、本作は、伏線、本論、意外な展開ともに濃厚だ。
 私は、普段小説を読まぬし、小説に現実感も求めてしまうのだが、部分部分においてのリアリティは、まるでドキュメントを読んでいるようだった。

 本当にスパイハンターたちが、ここまでの捜査をしているのかは別として、佐藤優氏あたりの本を読んでないことには、筋の詳細に不明な点が残るかも知れぬが、読みきり感とともに、2つの山場に読者も、体全体に知らず知らずの内に力が入ってしまっているのを実感するだろう。

 産業スパイならいざ知らず、政治主導権を米にゆだねる今、SVRがそこまで手をかけて調べるモノが日本にあるのか?との疑問は払拭できなかったのだが・・・


思わず何度も読み直してしまう一行が点在する       おすすめ度
翻訳モノばかり読んでいる私なので、ついつい週刊誌っぽい文章しか書けない日本人作家の作品は敬遠がちになるのだが、それらとは一線を隔す麻生幾はまさに別格。

特に本書は連載小説の単行本化ではなく書き下ろしなので、最初から最後まで練りこまれたプロットが図太く通っている。

その骨格に肉付けするように張り巡らされた伏線の数々は例え徹夜になろうともページをめくる手を止めさせてくれない。

そしてそれらを包み込む美しい皮膚のような文章力・表現力に著者のずば抜けた日本語能力の高さを見せ付けられる。

終盤でプロットの束が見事なまでにひとつに収束していく過程は興奮の一言に尽きるが、最後まで明らかにならない部分のいくつかが意図的でない都合主義的割愛という印象を受けないこともないとはいえ、逆に全てが明らかになるわけではないエスピオナージの世界感とはこういうものか、と納得させられてしまいさえする。

遊びのないハードサスペンスを探している読者なら、読み終わった後に背表紙の1900円という数字を見てその金額で買えるだけハンバーガーを買ってたらふく食べたよりも満腹になれるだろう。


一気に読みました、でも・・       おすすめ度
先祖がえりしつつあるロシアの悪辣な諜報活動、それを阻止し日本を守らんとする外事警察の過酷な戦いの日々・・。麻生幾らしくリアルっぽく緻密なディテイルの描写はあいかわらず素晴らしく、引き込まれるように読み進み、気がつけば一日ちょっとで読み終わりました。
 最近の筆者の作品がストーリーを壮大にしすぎてただの荒唐無稽なお話になっているのとは趣を異にし、むしろ地味な感じの諜報事件がメインストーリーとなっているのは地に足が着いた感じでとてもよかったと思います。
 が、読み終わってから気づくと肝心のストーリーは「?」なままでした。スパイの正体は?、そもそも何をスパイしていたの?、結局結末はどうなったの?、何でラストの場面でCIA etc.がいるの?、等々消化不良のままです。また、ストーリー展開させるための伏線っぽい思わせぶりやなぞかけのような表現が随所に目に付きますが、その多くに謎解きやオチがわかりやすく用意されてはいないので読んでいて疲れます。伏線だらけでストーリーのつながりが訳わからなくなっていたCOやZEROほどひどくはありませんが・・。
 緻密で膨大な取材も大変結構ですが、肝心のストーリーのひねり出しにももっと精魂を傾けていただき、もう少しわかりやすい作品をお願いします。


湘南ダディは読みました。       おすすめ度
久しぶりにスケールの大きなサスペンス作品を楽しむことが出来ました。ロシアから潜入しているスパイを捕縛しようとする警視庁外事警察のお話。こちらが全く知らない世界だけにまるで本当のことのように(あるいは丁寧な取材にもとづく本当のことなのかもしれませんが)、外事警察官達の活動が活写されています。例えば追尾されている対象者が追尾に気がついた時に不意に立ち止まりもとの方向に戻ってくることを直立反転と言うそうなのですが、その時に追尾者は決して目線をあわしてならず、目線を遠くにおいたまま何事もなくすれ違わなければならないなんて話、本当のように思えるじゃないですか。
また外事警察官として登場する人物たちがそれぞれ魅力的です。かって自分の部下を植物人間にされたことを契機にスパイハンターの鬼と化した主人公、水越警部、その配下の内山と野口、内山が部下を血反吐を吐くくらい厳しく鍛え上げるのに対し野口は部下をおだてながら使っていくタイプと両極で、二人は事あるたびに功名を争い対立します。彼らに加え、レストランで密会中の追尾対象者にアベックを装って接近したりするため目黒署からリクルートされている女子の松浦七海巡査部長、それぞれいかにもという存在感があります。
 渡り鳥というコードネームのロシアの大物スパイが潜入してきているらしい。日本側のエージェント小野寺敦史は商社員としてほとんど海外にいるが、その妻である美津江を水越達が執拗に追跡し調べていくと、実は小野寺敦史は本人をかたる別人で、本人は数年前にロシアにより拉致され殺害されていると思われ、水越達はこれを暴き事件化して世界に公表しようとする。最後にロシアに逃亡寸前の美津江をとらえるまで、CIAのかかわりもあったりまさに息をつく間もなくスリリングに展開します。エピローグもこのスパイ達のしたたかさを暗示しながら小説としても味のある見事な幕切れとなっています。


リアルな諜報小説       おすすめ度
ロシアのスパイを捕まえようとする日本の公安警察のストーリー。公安物に特化している麻生氏の作品はいずれもどこまでがフィクションで、どこからがノンフィクションなのかよく分からないほど具体的で詳細な描写がウリだが、本作もこれまでの傾向に違わずリアリティあふれている(少なくとも実際の公安を知らない人間としてはリアリティあふれるように感じる)。プーチン政権になってからどんどんと逆コースを辿っているロシアだが、本当にここまで諜報活動を本格化しているのであれば、安穏とした我が国にとってはものすごい脅威。一般人の目に見えない世界だけにさらに怖い。それにしても、作者はどのような取材活動を展開してこのレベルまで小説を書き上げているのかとても不思議。