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チョンも、スーパーKを持ち込み経済をかく乱させようとする行為など、一面は厭うべき工作員ではあるが、家族を愛し、自分の責務を全うしようとする、そんなところに悲しさを感じた。
今この小説に描かれた国の様々な問題が指摘されている。
しかしその国に住む人がこのようにやりきれない思いをしているという事を読むと、この国の人を怨んだり、憎んだりするのではなく、この国の人も幸せになってほしいと思った。
チョンが決して祖国を嫌いではなく(むしろ好き)、工作員としての許されざる行為も全て家族への愛によるものだというところが涙をさそう。
作者の綿密な調査と知識、そして語り口によってぐんぐん惹きこまれてしまった。
ひとりの男をはさんだ2つの家族、それを囲むいわゆる情報部関係者の思惑と見えない戦いが繰り広げられますが、いわゆるスパイ物語というよりは、人間の持つ複雑さや、無意識のうちに自分を支配している国や文化、習慣などの大きさを描いているように思いました。
中心にいるチャンが、いかに誠実で人間的に良い人格を持っていたとしても、彼が行ったものとその結果は、素晴らしいものでも明るいものでもなく、結局は人を利用し殺し、その幸福を踏みにじるものであるという悲劇が淡々と描かれていました。
何も知らずに犠牲になるのはいつも子供ですが、この話しの中では、かつて自分もその犠牲となった葉山が、想いをこめて彼らに語りかけ、手をさしのべています。
彼らの未来は決して明るいものではありませんが、希望がないわけではないのだ。
そういうふうに我々に思わせるEDは、感動的でした。
「プラチナ・ビーズ」の数カ月後なので、黒髪のフェロモンキングは海の向こうに行ってしまっていて、彼目当ての方には今回御期待に添えないでしょう。しかしなにより今作では葉山の目覚ましい成長ぶりが見られます。いい仕事をしています。…そして北と日本に2つの家族を持つ男の真実。謀略小説として素晴しい作品であるのは言うまでもありませんが、さらに家族とは、祖国とは、という精神性、人間性まで深く、しかし嫌味なく描かれているのはさすがの一言につきます。
私が読んだ頃は、北朝鮮の映像というとTVでは総書記の顔とマスゲームくらいしか見ませんでしたが、今は貧しい農村地区や中国との国境の川などもよく放映されるようになりました。この本の情景が、より眼に浮かびやすくなったと思います。
もしも「プラチナ・ビーズ」を手にとったなら「スリー・アゲーツ」もぜひ読んでほしい。むしろ「スリー・アゲーツ」を読むために「プラチナ・ビーズ」を読むのでもいい、とさえ思います。
そして早くシリーズ3作目「パーフェクト・クォーツ」が世に出ることを切に望みます。
とにかくこのチャンが好人物なんだ、実に真っ当、実に当り前。もちろんその手を汚しているわけなのですが、どこがって言われると表現しづらいですが、あえて言えば自分の出来る範囲内の誠実さで人と対しているように見えます。
このチャンの最後の大仕事と、彼の国を違えたふたつの家族がストーリーの核です。タイトルはそれを象徴する印。有能なスパイである彼の足跡を追っていく内に、仄見えてくる情めいたものに、葉山は違和感を強めていきます。彼の感情がもうひとつの核。

