THE WRONG GOODBYE ロング・グッドバイ
作者 矢作 俊彦
価格 1,890 円
出版社名 角川書店
出版年月 2004/09/10
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19年ぶりのハードボイルド書き下ろし! 神奈川県警の刑事・二村永爾は殺人事件の重要参考人ビリー・ルウの失踪と関わった嫌疑で資料部に配置換えされる。事件直後台湾で墜落した飛行機を操縦していたらしいビリーは二村宛に書類を残していた…。

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■読者の評価     おすすめ度平均

待ってました!矢作ハードボイルド       おすすめ度
’04年、「このミステリーがすごい!」国内編第4位、「週刊文春ミステリーベスト10」国内部門第8位に輝いた、神奈川県警の二村刑事を主人公にした、19年ぶり3作目のハードボイルドである。

二村は、世紀末の6月のある日、ビリー・ルウという日系アメリカ軍パイロットと出会った。ビリーと酒を酌み交わした彼は奇妙な友情を感じ始める。しかし、女の他殺死体が入ったトランクを、ビリーによってそうとは気づかぬうちに運ばされたため、彼は捜査一課からはずされ、閑職に左遷されてしまう。その直後、ビリーの操縦する小型飛行機が台湾で墜落したらしいという報せが届く。
一方で二村は、退職した先輩刑事からあるヴァイオリニストの養母の失踪捜査を頼まれる。ビリーの死を信じられない彼は、失踪人の捜索を進めるうちに、ふたつの事件が深いかかわりを持っていることを知るのだった・・・。

一種独特な雰囲気を持つ世紀末の横浜、横須賀を舞台に、街の人々、NHKの記者、怪しげな華僑、軍隊マフィアなどさまざまな人物が登場し、夜の街が描かれるだけでも魅力的だ。また短く切り詰めた文章と、粋で、時にはユーモラスな二村たちの会話のフレーズはクールである。

レイモンド・チャンドラーの『ロング・グッドバイ』の枠組みを借り、そのオマージュに満ちた、男が友と飲み、そして別れるだけの物語だが、登場人物の造形、時代背景、セリフのひとつひとつに矢作ハードボイルドのオリジナルを堪能することができる。


「真夜中へもう一歩」までもう三歩       おすすめ度
矢作俊彦のチャンドラーへの傾斜ぶりは周知のところでしょうが、この本歌取りは(あまりに本歌に近すぎて)成功しているとは思えません。厄介な謎解きは不要としても、もう少しプロットを吟味して、小道具を生かし(横浜も様変わりしたので情景描写に味がなくなりました。これは著者の責任ではなく街の責任でしょうが)、代わりにお得意のレトリックを減らしたほうが面白く読めると思います。著者の特徴としてデビューから現在まで殆ど文体が変わっていないのですが、昔は大人っぽいと思ったものが最近ではガキっぽく感じられます(ブリオやレオンの記事みたいに)。同じ文体を貫くなら「真夜中へもう一歩」を超えてくれることを望みます。


さいこーです。       おすすめ度
神奈川県警捜査一課の二村永爾が知り合った酔っぱらいの「撃墜王」ビリー・ルウのためにとある事件に巻き込まれてしまう。「誰も彼も他人の人生を生きているみたいだ」……たまらん!設定から最後の一行まで「長いお別れ」にオマージュを捧げられたスタンダード・ハードボイルドだが、そのコクと味わいたるや絶品。横須賀という特殊な土地柄、密入国者、米軍基地、ヴェトナム戦争まで関わる複雑さと猥雑さ。キャラもすべて個性がしっかりと立っているし、台詞もカッコイイ。難点を言えば車とミリタリーの蘊蓄・雑学ネタが多いところ。興味のないものには置いて行かれる。まぁ、あまり重要ではないが。


毒とカタルシス       おすすめ度
矢作俊彦はもちろん、ベテランの作家である。1950年生まれで、高校生のときに既に漫画家デビューしている。普通、ベテラン作家の作品というのにはどこかしらに「馴れ合い感」とか「熟れすぎ感」があったりするのだけど、この作家の場合は、どの年代の著作を読んでもデビュー作のようにみずみずしい。作家としての気概、時代に流されない反骨精神のようなものを感じる。前作の『ららら科學の子』の主人公は中国の山奥で現代日本を知らずに過ごした男で、『ロング・グッドバイ』の主人公は、いまどきにもなって携帯電話も持っていない男である。刑事なのに。

作家の時代意識は、冒頭にひかれたヘミングウェイの言葉にもあらわれている。

<現代生活はしばしば人に機械的抑圧を与える。酒はその唯一の機械的解毒剤なのである>

原語の「Relief」を、矢作はわざわざ「解毒剤」と訳している。要するに、矢作にとって現代は「毒」なのだ。そういえば、盟友の大友克洋の『AKIRA』の中の現代/近未来も相当毒々しかった。

ところで『ロング・グッドバイ』が名作であるとすれば、それは、「毒」ではなく「解毒」に焦点があるからでる。要は、ヘミングウェイにあやかって酒を飲むシーンがとても多いわけだが、全編を通じてそこに強い解毒作用、カタルシスがある。


美しすぎるハードボイルドは       おすすめ度
「日本語で書かれた、最も美しいハードボイルド探偵小説」のうたい文句に
「なるほど」と思う事しきり。確かにそれはその通りかもしれないと思います。
ですが、リーダビリティと相容れないその回りくどさは、私には馴染めない
ものでした。時間がかかりすぎて正直ストーリーと人物関係が頭に入ってこ
ない体たらく。
これは決して作品を貶めるものではなく、私自身の素養のなさを責めている
だけですから誤解されぬよう。
横浜で生まれ育った私は、作品の中の地理的な描写はほとんど頭に浮かびます。
それこそ遊び場だった伊勢崎町界隈の路地の一本一本まで。
そのノスタルジックが何とか読了させてくれました。